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やりたいこと

 俺は、改めてレニエルの顔をよく観察する。


 枝毛一つない、肩まで伸びた金色の髪。

 加工品かと思うほど長い睫毛の下には、ブルーサファイアそっくりの大きな瞳が輝いている。


 形の良い鼻は、子供らしい愛らしさをちょこんと主張し、唇はリップを塗ったようにピンク色だ。


 うん。

 やっぱり女だ、こいつ。


 でも、『お前やっぱり女だろ。男だって言うなら、証拠に○○○見せてみろ』って言ったら、怒るだろうなあ。


 まあ、せっかく仲良くやっているのだし、わざわざ波風立てるようなことしなくてもいいか。


 レニエルが男でも女でも、別に俺の態度は変わらないしな。

 一人そう納得する俺を見て、レニエルが不思議そうに首を傾げた。


「どうしました、ナナリーさん? 僕の顔に、何かついてます?」

「いや、ただ、その、随分と、冒険者の仕事に積極的なんだなって思って」


 レニエルは、ニコッと笑う


「ええ。今日の冒険は、本当に胸が躍りました。僕は魔法で光を作っていただけでしたが、ナナリーさんとタルカスさんの活躍を見て、思いましたよ。僕もこんなふうに、逞しい冒険者になりたいって」

「俺の活躍は大したもんじゃないが、まあ、あのタルカスの強さは確かに凄かったよな。……って、おい、今お前、冒険者になりたいって言ったけど。それって、今みたいに一時しのぎで金を稼ぐためじゃなくて、本格的に冒険者になりたいってことか?」


 まるでタルカスの真似をするように、レニエルは静かに力強く頷いた。


「ナナリーさん、前に話していたでしょう? 僕の人生は始まったばかりだから、何かやりたいことはないのかって。その、『やりたいこと』が、今日見つかったんです。僕は雲のように自由で、どんな力にも屈しない、本物の冒険者になりたいんです!」


 むふーと息を荒げて宣誓するレニエルの瞳は、少女というより、憧れがいっぱい詰まった少年のものだ。


 ああ~……

 なんといいますか……

 あるよな、こういうこと。


 大まじめで、それまで抑圧された生活をしてたやつが、ちょっとアウトローな暮らしを体験すると、人生観が変わって、道を踏み外すっていうか……


 まあ、レニエルの気持ちも分からんでもない。


 子供の頃から修道院に預けられ、坊さんみたいな毎日を送っていたのが、見たことも会ったこともない兄貴とやらの思惑で、今度は聖騎士にされ、挙句の果てに父親の非道な命令で死ぬところだったんだもんな。


 ……何もかも、自分以外の、大きな力によって定められた人生。

 それが、今までのレニエルの人生だったんだ。

 自分で考え、行動し、道を切り開く冒険者に憧れるもの、無理もないか。


 しかし、こいつが冒険者になりたいというのなら、分魂の法とやらで命を分け合った俺も、自然と冒険者になることになる。


 やれやれ、せっかく魔王軍を辞めたのだし、のんびり田舎暮らしでもしたかったのだが。


 俺は、小さくため息を吐いた。


 まあ、別にいいんだけどね。

 田舎暮らしってやつも、いざやってみたら、案外退屈なだけかもしれないしな。

 いざやってみたらと言えば、冒険者も、今日実際にやってみると、思ったより悪くなかった。


 俺にも多少は、少年的な冒険心が残っているらしい。

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