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またな

 そう言ってタルカスの肩をバンバンと叩くと、彼は途端に身を硬くし、震える声で囁く。


「さわらないで。まちゅあさん、いがい、だめ。まだ、さわられる、だめ、きょひはんのう、でる」


「なんでカタコトになるんだよ。まあ、この調子なら浮気の心配する必要もないし、強くて優しい、稼ぎも充分な、理想の旦那様かもな。……ところで、ゲインの爺さんはどうした? あの爺さんにも相当世話になったから、挨拶したいんだけど」


 マチュアが、肩をすくめるようなポーズを取り、笑う。


「ゲインさんなら、もうしばらくギルドには来てませんよ。事業が忙しくて、依頼をこなす暇なんてないでしょうからね。たぶん、このまま冒険者は引退でしょう」


「事業?」


「ナナリーさんも、知ってるでしょ? あの人、ジムの経営やってるじゃないですか。まあ、ちょっとガチすぎるジムで、今までは大して儲かってなかったみたいなんですけど、今年から経営方針を変えて、一般客も取り込むようにしたら、それが大当たりしたみたいなんですよ」


「ああ……そういや、ジムのトレーナーも、そんなこと言ってたっけな」


「今や、アルモットのほかにも、四つの都市に支部を作って、経営で大忙しみたいですから、アルモットに顔を出すのは、せいぜい月に一度くらいですね」


「そっか。挨拶できないのは残念だが、商売繁盛で何よりだ。今度、会うことがあったら、俺がよろしく言ってたって伝えといてくれよ」


「ええ、もちろん」


 そこで俺は、ギルド備え付けの柱時計を見る。

 話し込んでいるうちに、もう12時40分だ。


 やばい。


 俺の俊足でも、さすがにもう出なきゃ、午後13時ちょうどに出発の飛行船に間に合わない。慌てて話を切り上げ、玄関のドアを片手で開けながら、一度だけ振り返り、俺は言った


「俺、アルモットに暮らして、このギルドに入って、あんたたちと出会えて良かったよ。大変なこともあったけどさ。楽しかった。レニエルも、きっとそう思ってる。だから、その、またな!」


 そして、俺はギルドを出て、路地を疾走する。


 さっき言った通り、もう、よっぽどのことがない限り、ここに戻ってくることはないだろう。……それでも、『さよなら』と言うより、『またな』と言って別れたかった。


 シルバーメタルゼリーとして、何度も冒険者たちにひどい目に遭わされた俺が、こうして、好感を持てる冒険者たちと出会えたのは、奇跡みたいな『えん』だと思ったからだ。


 その『縁』を、ただの言葉とはいえ、『さよなら』の一言で断ち切りたくなかった。


 またな、皆――


 心の中で、もう一度そう言いながら、俺は少しだけ潤んだ瞳を指で擦り、飛行船の発着場へと向かうのだった。




 第一部 完

 きりがいいので、ここでひとまず完結とさせていただきます。

 読んでいただき、ありがとうございました。

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