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なんで喋ってくれないの?

 それにしても、どうして俺たちに直接言わないんだ? 今の発言を聞く限り、ひよっことは口をききたくないというような、傲慢なタイプとも思えない。俺は、思ったことを、そのままタルカスに尋ねた。


「報酬のことはまあ、大変ありがたいんだけど、タルカスさん、なんで俺たちに直接言ってくれないんだ?」


 タルカスは、瞑想するように深く目をつぶり、再びマチュアに耳打ちした。

 だ、だから、なんで直接言わないんだよ……


 それから、踵を返して、彼はギルドを出て行った。

 取り残された俺とレニエルに、マチュアが言う。


「タルカスさんは、『すまない。別件の依頼があるから、私はそろそろ行かなければならない。今日はお疲れ様』と言ってました」


「いや、だから、なんであんたに耳打ちするんだ? 俺たちにひとこと言えばいいじゃん。『別件があるからこれで』ってさ」


「いやー、それが、ちょっと難しいんですよ」


「なんで?」


 マチュアは、少しだけ嘲るような笑みを浮かべ、言った。


「タルカスさん、もの凄い奥手で、初対面の女の人とは、まともに喋れないんです。私とも、なんとか会話できるようになるまで、五年かかりましたからね」


「なんとまあ……そういうことだったのか。しかし、いくら奥手っていってもさ、一言も喋ってくれなかったぞ。『ああ』とか『うん』くらい、言ってくれてもいいのに」


「無理ないですよ。ナナリーさんとレニエルさん、どっちも可愛いから、照れちゃって、相槌打つのも恥ずかしかったんでしょう。女の子二人とパーティーを組むなんて、初めてだったでしょうしね、あはは」


 それまで黙っていたレニエルが、不愉快そうに言った。


「僕は男なんですけど」


 マチュアは爆笑した。

 気の利いたジョークだと思ったらしい。


「笑うところじゃないんですけど」


 そんなこんなで、俺たちの冒険者としての初日は、無事に終わった。



 その日の夜。

 500ゴールドも所持金が増えたので、ボロ宿にて、少し豪勢な夕食を取りながら、レニエルと話す。


「いやあ、これだけ金があれば、一週間は働かなくていいよな。このボロ宿も、慣れれば案外悪くないし」


 香ばしいチキンを手づかみで頬張りながら言う俺に、レニエルは呆れたような視線を送ってくる。


「何言ってるんですか。冒険者として経験を積むためにも、明日も依頼を受けに行きましょう。お金はいくらあっても困るものではありませんし」


 それだけ言い切ると、ナイフとフォークを上手に使って、チキンを細かく分け、小さな口に運ぶレニエル。


 男のくせに、ちまちまとした食い方をする奴だ。

 ……と言うより、こいつ、本当に男なのか?


 旅の最中も、このボロ宿に着いてからも、着替えをするときは、こちらに背を向けてコソコソとやっているので、こいつが男である決定的な証拠――つまり、その、あれだよ。男にとって最も大切な『例の部分』は一度も見ていない。


 もしかして、本当は女なのに、何か理由があって男と言い張ってるだけなんじゃないのか?

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