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ぬしは馬鹿者だ

 店主がそう言い終える頃。

 ジガルガは、静かに、震える声で、語りだした。


 その声色には、少しだけ、詰問するような響きがあり、それ以上に、大きないたわりの気持ちがこもっていた。


「ぬしは馬鹿者だ……我なんぞのために、あんな無茶をして……! 我はしょせん、人造魔獣――ただの道具、作り物に過ぎないのだぞ? 解体されようが、ご主人様がその気になれば、何度でも、似たような物を作ることができる。いわば、喋って動くだけの、ただの人形だ。ぬしが、身を危険にさらして、奪い返すほどの価値はない!」


 そうか……どうやら、俺がアクセラレーションを無理やり再使用したことで、ジガルガにかなりの心配をかけてしまったようだ。まあ、先程の俺の苦しみようを見たら、これだけ取り乱すのも無理はないか。


 なんだかんだで面倒見の良いジガルガのことだ、おのれのせいで、俺に無茶をさせてしまったことで、自分自身を責めているのだろう。俺は再び、ジガルガの頭を撫でながら、できるだけ優しい声で、慰めるように、言う。


「自分でさ、自分のこと、価値がないとか言うなよ。一生懸命お前を取り返そうとした俺が、馬鹿みたいだろ? 俺に取っちゃさ、お前が作り物でもなんでも、関係ないんだよ。大切な、俺の友達には、違いないんだから」


「…………」


「それにさ、さっき、アーニャに言ってたの、聞こえたろ? 別に、お前のためだけに無茶したわけじゃない。俺自身が、アーニャに勝ちたかったってのもあるんだから、そんなに自分を責めるなよ。これまで通り、気楽に行こうぜ」


 そこで、随分と取り乱していた自分に気がついたのか、ジガルガは少しだけ頬を染めると、小さく咳払いして、言う。


「ば、馬鹿者……別に、自分を責めてなどいない……。無鉄砲すぎる、ぬしの行動に、ひとこと苦言を呈してやろうと思っただけだ……」


「なら、もういいじゃないか。俺は勝っていい気分、お前は助かっていい気分。これで、万事丸く収まったってことだ」


「まったく、いつもいつも、そうやって軽口をたたき、気安く命を投げ出すような真似をして……ぬしが死んだら、魂を分けた子童にも影響が出ることを、忘れてはおらぬか? ぬしの行動には配慮が足らぬよ、配慮が」


「うっ、それは、まあ、その通りだ。気を付けるよ、本当に」


「是非そうしろ。……でも、今回は、その、な」


 そこで、ジガルガは一度言葉を切り、照れくさそうにはにかみながら、囁く。


「ありがとう……な……」


 俺はゆっくり頷き、しばらくの沈黙の後、口を開いた。


「それじゃ、ひさしぶりに、俺たちの住まいのボロ宿に帰るとするか」


 最後に宿を出てから、もう一ヶ月たっており、賃貸の契約はとっくに切れてしまっているが、あんなボロ部屋、そうそう新しい住人が入るとも思えないので、今日、新しく契約を結べば、いつも通りにゆっくり休めるだろう。


 そう思い、ジガルガの手を引くが、彼女は小さな頭を左右に振って、言う。


「助けてもらって、恐縮なのだが、我はもう、ぬしと行動を共にするわけにはいかん」


 唐突な主張に驚愕し、俺は思わず、上ずった声を発してしまう。


「えっ、なんで? まさか、このクソ店主に仕えるとか言うんじゃないだろうな?」


 店主がどこにいるか分からないので、虚空を指さしながら問うと、どこからともなく声が響いてくる。


「ジガルガは、きみの身を案じて、距離を置こうとしているのだよ」

「どういう意味だ?」

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