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割に合わない

 そうだ。

 俺は、ジガルガを助けたいのと同じくらい、このアーニャに勝ちたかったのだ。


 一度目の戦いでは、ほとんど手も足も出ずに敗れ、二度目も、引き分けという体裁だが、実質は負けたようなものだ。


 そんな彼女に、三度目の今回は、勝ちたかった。

 それが、アーニャの言う通り、ハンデをいっぱいもらった、ただのゲームだとしても。


 自分でも驚くが、俺は思ったより、負けず嫌いらしい。

 アーニャは、まるで理解できないと言うように、首を左右に振る。


「まったく、人間の考えっていうのは、理解しがたいなぁ。何回も言ってるけど、これ、ただのゲームだよ? こんなにボロボロになって、僕に勝ったから、いったいなんだっていうのさ? そりゃ、友達のジガルガちゃんが戻ってくるのは嬉しいだろうけど、お金がもらえるわけでも、名誉が手に入るわけでもない。とても、割に合わないと思うけどな」


 そこに、虚空から言葉が響いてくる。


「いや、アーニャ、これこそ人間の素晴らしさだ。非合理的なことに、各々おのおのが、各々なりの意味を見出して執着し、命を燃やして生きる、だから、人間は素晴らしい。だから、人間観察は面白いのだ。いや、いや、まったく、素晴らしいものを見せてもらったよ、ナナリーくん。痛みに耐えて、よく頑張った、感動した!」


 どこぞの総理大臣のようなことを言いながら、拍手をする店主。

 リングを囲んでいた観客人造魔獣たちも、口々に「感動した!」と叫びながら、おんおんと号泣している。


 はいはい……

 そりゃよかった……

 皆様に感動してもらえて、俺も嬉しいですよ……


 しばらくして、やっとこさ、足に力が入る程度には回復したので、俺は立ち上がり、店主に向かって言う。


「さあ、約束だぞ。ジガルガを返してくれ」

「わかっているよ」

「あと、金輪際こんりんざい俺たちにかかわらないって約束も、ちゃんと守れよ」

「ん? そんな約束はしいていないと思うよ?」


 ちっ。

 勢いで押し切ろうと思ったが、やっぱり駄目か。


 おっと……まだ少し、足がふらつく。

 バランスを崩し、転びそうになった俺を支えてくれたのは、アーニャではなく、いつの間にかリングに現れていたジガルガだった。


 小学生程度の体格なのに、がっしりと力強く俺を受け止めるその腕力は、さすが人造魔獣である。


 俺は、なんとか自立すると、ジガルガの頭を撫で、笑う。


「どうだ、ジガルガ。勝ったぞ。山ほどハンデを貰った上の、辛勝だけどな」


 そして、ピースサインだ。

 ふふふ、決まった。

 さすがのジガルガも、ここは感涙にむせび、俺に感謝の言葉を述べるだろう。


 そう思っていると、ジガルガは小さな体で、俺を目いっぱい抱きしめてきた。

 ふふふ、いいだろう。

 そのまま、俺の胸の中で泣くがよい。


 んっ……

 んぐぐ……

 ちょっ……

 力、強……

 苦しっ……


 ちょっ、おい、いくら何でも、抱きしめすぎだ。

 なんなんだいったい?

 そう思ってジガルガを見ると、泣いてこそいないものの、その表情からは、深い心労が見て取れた。


「お、おい、どうしたんだよ……? あのクソ店主に、何か変なイタズラでもされたのか?」


 虚空から、店主の声が響いてくる。


「私を変質者のように言うのはやめてくれたまえ。ジガルガは喜んでいるのだよ。自分が助かったことより、無理な身体強化をおこなった割に、案外きみの体が無事であることをね。不思議なものだ。人類抹殺のために作られた戦闘マシーンであるジガルガに、このような感情があるとはな。うーん、実に興味深い」

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