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お前の弱点

 それでもいいさ。

 ダメージが半分なら、さらに手数を増やして、何倍ものパンチを腹に打ち込んでやる。

 俺は、疲労で乱れる呼吸を、必死に抑え込むようにしながら、会話を続けた。


「いやね、いつも教えてもらってばっかりだから、一度くらい、俺もお前に、有益なことを教えてやろうと思ってね」


「へえ、なにかな」


「お前、確かに凄いよ。最高の人造魔獣っていうだけある。単純な戦闘力だけでも、とてつもないし、邪鬼眼の術とか、テレパシーとか、その気になれば、もっと複雑な術法だって使えるんだろ?」


「まあね」


「それがお前の弱点さ」


「どういうこと?」


 小首をかしげるアーニャに、俺は軽く微笑んで、言う。


「つまり、凄すぎるんだよ。欠点がない。……だから、無意識に、他者のことを下に見てる。特に、下等な人間程度には、何があろうと負けないっていう、絶対的な自信がありすぎるんだ」


「まあ、そうかもね。でも、そういうのは『弱点』じゃなくて、『事実』っていうんだよ。実際、きみはそれだけの装備を身につけながら、僕の顔面に一発入れることもできないんだから」


「それを言われるとつらいけどね。でも、お前の弱点はそれだけじゃない」


「なにかな? 今度は、もっと弱点らしい弱点を指摘してよね」


 少し間をおいて、ポツリと、小石を吐くように、俺は囁いた。


「結局さ、お前、真剣じゃないんだよ」


「どういう意味?」


「俺は今、必死に、真剣に戦ってる。ジガルガを、あのクソ店主から取り返したいからだ。でもお前は違う。ご主人様を楽しませるショーさえできれば、それでいい。だから、それほど勝敗にはこだわっていない。違うか?」


「そりゃそうだよ。僕にとっては、ご主人様を楽しませることが一番だからね。まあ、だからといって、わざわざ負けたいとは思わないけど。……それでももし、僕が負ける方が楽しいってご主人様が思うなら、喜んで負けるよ」


 ニコニコと笑いながら言い切るアーニャ。

 彼女の言葉には、一切の虚飾がない。

 心から、そう思っているのだろう。


「だからなんだな。俺と、圧倒的な実力差があるにもかかわらず、さっきから、好き放題にボディを叩かれてる。真剣じゃないからさ。……そういう余裕って、案外、肝心なところで、大きな油断になったりするんだぜ」


「ご忠告どうも。でも僕の余裕も油断も、このゲームを楽しくするスパイスの一つさ。考えてもごらんよ、僕が全く油断をしない戦闘マシーンなら、きみに付け入る隙はないんだからね」


「そりゃそうだ」


 そう言いながら、俺は思わずほくそ笑んだ。

 実は、今あげた二つの弱点は、アーニャの言う通り、弱点というより、ただの事実だ。


 本当の弱点は、別にある。

 それは、彼女がおしゃべり好きということだ。


 戦いの最中でも、俺が話しかければ、決して無視することなく、すらすらぺらぺらと言葉を返してくるし、喋ってないと運動できないのかと思うほど、動作の合間合間に、いちいち話しかけてくる。


 そして、だいたいどんな人間でもそうだが、『話しながらやること』というのは、集中しておこなっていることより、雑になるものである。


 それは、最高の人造魔獣でも変わらないようで、アーニャの動き――その精度は、黙って回避行動をしている時より、少しだけ、本当に少しだけだが、雑になるのだ。


 そして、アーニャもそのことに気がついているが、別に話を止める気も、動きの精度を修正する気もないようだ。

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