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面白い秘策

「うん。でもな、攻撃の一つ一つ、体裁きの一つ一つが、もうとにかく無駄が多すぎて、ウチからすれば、道端の石ころを避ける感覚でかわせてしまうんよ。……逆に言えば、動きの無駄をなくせば、アクセラレーションなしでも、生来のスピードを活かして、最高の攻撃ができると思う」

「はぁ、なるほど。それで、動きの無駄をなくすのと、アクセラレーションを早めに使うのに、何の関係があるんですか?」


 ヴィルガは、右手の人差し指を左右に振りながら、舌をチッチッチと鳴らし、微笑を浮かべる。


「人間の体はな、マジで疲れ切っとるときは、無駄な動きをせんと、その時その時の、一番楽で、スムーズな動きを自然とするようにできとるんよ。せやから、アクセラレーションで体をへっとへとにして、強制的に、最も無駄のない動きをせざるをえん状態にするっちゅうわけや」


「はぁ、まぁ、理屈としては分かるんですけど、ヘトヘトになっちゃったら、いくら無駄のない動きができても、戦うなんて無理じゃないですか?」


「せやから、ヘトヘトの状態でも、一分くらいは戦えるように、今から特訓するんや。具体的には、いっぺんアクセラレーションを使い、ヘロヘロになってから、ぶっ倒れるまでウチと模擬戦闘をやる。んで、ぶっ倒れたら、ちょっぴり休憩して、またぶっ倒れるまで模擬戦闘をやる。連日それを繰り返せば、一分程度なら、疲れ切った状態でも、まともに戦えるはずや」


 それはつまり、動くのもやっとのボロボロな状態で、ヴィルガのような猛者と、戦い続けるってことか。


「なんか……すっごいキツそうですね……」

「そりゃ、『ぶっ倒れる』『起きる』『戦う』をひたすら繰り返すわけやからな。訓練っちゅうか、拷問に近いな」

「…………」

「どした? やっぱりやめとくか?」

「いえ、やります。やらせてください」

「よしよし、ええ返事や」


※※※※※


 そして、今に至ると言うわけだ。


 眩暈がするような疲労感にふらつきながらも、無駄のない鋭い攻撃が次々とアーニャの急所を襲い、腹部には、すでに三発も強烈な攻撃が当たり、二度ほど、顔面をかすめるパンチを打つこともできた。


 ほとんどゾンビ状態の俺が、目の覚めるような攻撃を始めてから二十秒が経過したころ、アーニャはやっと合点がいったように、息を吐く。


「なるほどね。半死半生の、無駄な動きをしたくてもできない状態で、なんとか戦えるように訓練したってわけだね。なるほど、なるほど。これは確かに、面白い秘策だよ。お腹に何発かいいのをもらっちゃったし、さっきなんか、踏み込み半歩程度の差で、顎を捉えられるところだったからね」


 そうさ。

 さっきの一発は、本当に惜しかった。

 次こそは、お前の顔面を捉えてやる。


 俺は自分を奮い立たせ、更なる攻撃で、アーニャに襲い掛かる。


 左斜め下からの、スマッシュパンチ。


 よし。

 いいタイミングだ。

 当たる。


 あっ。

 クソッ。

 ギリギリでかわされた。


「ふぅっ、危ない危ない。水晶輝竜のガントレットをつけているから、疲労しきったパンチでも、威力は充分だね。ご主人様に戦闘服を改良してもらってなかったら、さっきのボディへの連打によるダメージで動きがもたついて、今の一発は、まともにもらってたかもね。いやはや、きみが自分で考えたのか、きみを鍛えた先生の入れ知恵なのか知らないけど、本当に良い作戦だよ」


 かなり集中して俺の攻撃をかわしているせいか、すっかり汗だくになったアーニャだが、もう先程のように困惑した様子はなく、すでに余裕の笑みを浮かべ、軽やかに、歌うように、語りかけてくる。

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