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高速化

 ヴィルガと何度も模擬戦闘をして鍛えたこともあり、そのうちのいくつかは、アーニャの足や腹部に命中することができた。


 ただ、どれも、ダメージを最小限に抑えるよう、見事に受けられており、当然のごとく、頭部にはかすりもしない。


 おまけに、こちらの攻撃が当たるとすぐ、まるで意趣返しのように、同じ方法でアーニャが攻撃してくる。


 俺の技とは、次元の違う攻撃力のアーニャの拳足が腹部や大腿部に直撃するたび、相変わらずの、爆弾が破裂したかのような衝撃に、骨の髄まで痛みが走るようだった。


 ただ、アクセラレーション呼吸法により、筋肉や内臓が強化されている恩恵なのか、以前に比べると、明らかに、全身に溜まっていくダメージが少なくなっていた(まあそれでも、伝説級の三装備を身に着けていなければ、今頃全身バラバラになっているだろうが)。


 頭の中で、『色々と攻撃を受けるうちに、じわじわとそのありがたみが分かってくる』というヴィルガの言葉が再生される。


 ……さて、試合開始から、そろそろ二分半か。

 頃合いかもな。

 俺は、一度アーニャから離れ、深呼吸を始める。


 すー……

 はー……

 すー……

 はー……


 何度も。

 何度も。


 吸っては。

 吐く。


 吸っては。

 吐く。


 アーニャが、おかしそうに問いかけてきた。


「どうしたの? もう、疲れちゃった?」


 その問いには答えず、俺は深呼吸を続ける。


 すー……

 はー……


 すー……

 はー……


 ひーっ。

 ひいぃっ。

 よし、今だ。


 ひぃっ!


 鋭く、一気に、息を吸う。

 全身が、燃え上がるように、熱くなる。

 アクセラレーション、加速モードに突入だ。


 リングを蹴り、アーニャに向かって、これまでとは段違いのスピードで猛進する。

 飛燕の速さで打ち込んだミドルキックを、綺麗に防御しながら、アーニャは余裕たっぷりに微笑んだ。


「へえ、なるほど。きみの言う『秘策』って、アクセラレーションのことだったんだ」


 ……こいつ、アクセラレーションのこと、知ってやがるのか。

 まあ、スーパー物知りさんだもんな。

 知ってても、不思議じゃないか。


 俺の加速モード持続時間は、最長30秒。

 考えている時間がもったいないので、すぐさま次の攻撃に移る。


 顔面へのワンツーパンチ。

 それから、ボディへの膝蹴りだ。

 アーニャは、ワンツーを華麗なスウェイバックでかわすと、さらに後ろへステップバックし、膝蹴りも回避した。


 さすがに、高速化した俺の攻撃を防ぐのは少々神経を使うらしく、彼女の額に、小さく汗が浮かぶのが分かった。


 その、汗の雫を拭いながら、アーニャは、先程と変わらぬ余裕の笑みを浮かべる。


「なかなかいい作戦だと思うけど、こんなにすぐ、使っていいの? まだ、二分以上試合時間が残ってるのに。……僕もやったことあるけど、これ、使った後、凄く疲れるでしょ? ちょっと仕掛けるのが早かったんじゃない?」


 その言葉に、ゾッとした。

 正確には、アーニャの言った、『僕もやったことあるけど、これ、使った後、凄く疲れるでしょ?』という部分に、戦慄した。


 僕もやったことある、だって?


 いや、まあ、以前、大体の格闘技はできると言っていたし、人造魔獣は恐らく、普通の人間よりはるかに血管は強いだろうから、アーニャがアクセラレーションを使えても不思議ではないのだが……


 俺は無我夢中で、次々に攻撃を繰り出しながら、恐怖におびえていた。


 アーニャがもし、俺に対抗してアクセラレーションを使用してきたら、これからやる予定の『真の秘策』が、きっと大外れに終わってしまう。

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