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ゴング

 そこで、カーンと、高らかにゴングが鳴った。

 リングを囲む観客人造魔獣たちが、大きく歓声を上げる。


 えっ、ちょっ、おいっ、待てよ。

 まだ伝説級の三装備を着せてもらってないぞ……と慌てて自分の体を見下ろすと、いつの間にか俺の体には、例の三装備――水晶輝竜のガントレット、金剛堅竜の鎧、そして飛天翼竜のレガースが装着されていた。


 ホッと、一息吐く。

 まったく、着せるなら、着せるって一声くらいかけろってんだ。


 俺は気を取り直し、こちらに向かって無警戒に歩いてくるアーニャを見据える。

 そして、ポツリと言った。


「……やっぱり、露出度高すぎて、エッチな服装だよ、それ」


 ご主人様特製の戦闘服を何度もエッチ呼ばわりされ、さすがのアーニャもやや苛立ったのか、少し頬を膨らませて抗議する。


「もう、さっきからなんなのさ。人の勝負服をエッチエッチって。エッチって言う方がエッチなんだよ?」

「かもな」


 そう短く言いながら、俺はアーニャに突進し、顔面に対してジャブを放った。

 自分でも姑息な手段だと思うが、話しかけて油断させたのである。

 しかし、予想通りというか、アーニャは軽く背を反らし、難なく回避する。


「わぁ、ずるいんだぁ」


 こちらを責めるでもなく、楽しげにそう言うアーニャの顔面に、さらに、一つ、二つ、三つ、細かいジャブを打ち込んでいく。


 そのすべてを、ヘッドスリップ――頭を小刻みに揺すり、華麗に回避しながら、彼女は流暢にしゃべり続ける。


「うんうん、パンチの打ち方、ずいぶん良くなったね。たった一ヶ月、自己流じゃ、こうはいかないね。誰か、良い先生に教えてもらったのかな?」


 よくもまあ、激しく頭を揺すりながら、それだけスラスラと喋れるものだ。

 俺は、息を乱さぬよう、パンチを打つ際の呼気と共に、言葉を紡ぐ。


「教えてもらったよ、お前と同じか、それ以上に強い人にね」


 問いに答えながらも、さらに三つ、左のジャブを打ち込み、その最後には、右のフックでアーニャの顎を狙う。


 しかし、空振り。

 なかなか良いコンビネーションだったと思うが、アーニャには俺の動きが丸見えのようだ。


 もちろん、そう簡単に勝負を決められるとは思っていなかったが、キレのあるパンチを、こう何度も見事にかわされると、勝つためにはやはり、ヴィルガと特訓した、例の『秘策』を使わなければならないと実感する。


 アーニャは、一旦俺から距離を取り、ニコニコと話を始めた。

 以前から思っていたが、こいつ、かなりのおしゃべり好きである。


「ふぅん、僕より強い人間なんて、世界中探しても、そう何人もいないと思うけどな。機会があったら、その人に会ってみたいなあ」


「奇遇だな。その人も、機会があったらお前と戦ってみたいって言ってたよ」


「そうなんだ。案外、僕と気が合うかもね。……それにしても、まさか、さっきの奇襲とか、今みたいに馬鹿正直に連続パンチを打ちこんでくるのが、『秘策』ってわけじゃないよね?」


「違うよ」


「良かった。この程度の攻撃、五分どころか、五時間続けても、僕の顔面を捉えるのは不可能だからね」


「だろうな」


「もう、一分経過したよ? そろそろ、その『秘策』を使った方が、いいんじゃないかな?」


「慌てるなよ。タイミングが難しいんだ」


 そう言って、再び俺はアーニャに突進していく。

 おしゃべりはしばらくお休みだ。


 正拳。

 上段回し蹴り。

 ボディブロー。

 肘打ち。

 ローキック

 膝蹴り。

 後ろ蹴り。

 思いつく限りの攻撃を、一連のコンビネーションにして、連続して打ち込んでいく。

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