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今のままでは……

 俺は口を挟まず、彼女が言葉を続けるのを、待つ。


「……ただな、その、再試合の相手、アーニャやったっけ? そいつが、ウチと互角クラスの相手なら、今のままの特訓を続けても、あと一週間で顔面に一発入れるのは、無理や」

「な、なんでですか? やっぱり、加速モードの持続時間が短いから……」


 俺の言葉を遮るように、ヴィルガは首を左右に振る。


「たとえ、加速モードの持続時間が、一分になろうが、五分になろうが、今のナナのレベルでは、不可能や」


 そこで一度言葉を切り、深く息を吸って、吐いてから、ヴィルガは言った。


「……つまりな、どれだけスピードが増したところで、圧倒的に経験が足りんのや。勝機を見極める目、無駄のない動き、理想的な攻撃の組み立て、そういった能力は、二週間や三週間で、そうそう成長できるもんやない」


「そんな……」


「それでも、ウチと毎日訓練したことで、動体視力もかなり上がっとるし、加速モードを使った状態で、例の伸びるパンチで奇襲すれば、並大抵の相手ならば、一撃当てるどころか、その一発で叩きのめせるくらい、あんたは強なったと思う。しかし、ウチと同レベルの相手なら、無理や。確実に動きを読んで、かわす」


「…………」


「すまんな。最初に、『ウチの顔面に一発当てるくらいはできるようになるやろ』っちゅうたのに。ちぃっと読みが甘かったわ」


「いえ……」


 ヴィルガを責める気には、まったくならなかった。

 確か、『絶対にできるとは言えんけど』って言ってた気がするし、なにより、俺が未熟なのが悪いのだから。


 なんの得にもならないのに、ここまで親身になって鍛えてくれたヴィルガに対しては、感謝しかない。


 事実、彼女の言う通り、俺自身、かなり強くなったと思う。


 この前の試合でも、なんとか引き分けにまでは持ち込めたのだし、こうなったら、あのアーニャが、ヴィルガよりは劣る使い手であることを、期待するしかないか。


 いや、しかし、ロケットパンチみたいな奇策は、そう何度も通じないだろうし、あいつも、ご主人様の前で、二度も醜態をさらすわけにはいかないと、今度は気を引き締めてくるかもしれない。


 どうする。

 どうしよう。

 負けるわけにはいかない。


 これから、残り一週間。

 どう特訓して過ごすのが正解なのだろう。

 瞳を閉じ、思案し続ける俺の耳に、ヴィルガの声が届いた。


「なあ、ナナ。ウチ、ちょっと思いついたことがあるんやけど」


「えっ、もしかして、勝つための秘策ですか?」


「う、うん。まあ、そうなんやけどな。これまた、絶対に勝てるとは言えん秘策なんよ。これから一週間、かなりキツイ特訓をして、その結果、やっぱり無理やったってなるかもしれん。……それでも、もういっぺんだけ、ウチのこと、信じてくれるか?」


 俺は、迷うことなく頷いた。

 どんな奇策でも、無策よりはいいに決まってる。

 何より、ヴィルガ・レインズという、闘いの鬼が考えた秘策だ。

 これを実行しない手はないだろう。


「キツイのは、もう慣れっこですよ。なんでも言ってください。体の動く限り、やりますよ、俺は」


「さよか。おおきに。ほな、今日からウチも、ちぃっと昼間の巡回を減らして、徹底的にあんたに付き合うわ」


「いいんですか?」


「うん、少しくらいは、側近の部下に任せても、ええやろう」


 ありがたいことだ。

 なんとなく、話しやすい雰囲気になったので、俺は気になっていたことを尋ねた。


「あの、ヴィルガさん。ちょっと聞いても、いいですか?」

「なんや? 急にあらたまって」

「その、いくらイングリッドの知り合いとはいえ、突然やって来た、見ず知らずの俺に、どうして、ここまでしてくれるんですか?」

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