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当たり前の仁義

 静かにそう語るヴィルガの瞳には、深い悲しみと共に、黒い炎のような憎しみが、渦巻いていた。


 今の話で、廃屋と表現しても過言ではないこの家に、何故ヴィルガが住み、線香をあげ続けているのか、やっと理解できた。亡き友と、その家族の魂を、弔い続けているのだろう。


「ほんでな、ウチは決意したんや。レインズ・カルテルを乗っ取って、このレグラックから、薄汚い薬と、それを商売のタネにしとる外道どもを一掃したるってな。んで、思い立ったが吉日や。その日のうちに、レインズ・カルテルの本部事務所に乗り込んで、幹部どもを叩きのめし、実力で、ウチが新しいボスやって認めさせたったわ」

「さすがお師匠。圧倒的な暴力で、即日、すべてを解決するそのパワー、痺れます」


 イングリッドが、感銘を受けたように大きく頷く。

 この師弟、やっぱり似てるな……

 しかしヴィルガは、力なく首を横に振った。


「いや、幹部どもを叩きのめして、それですぐ解決とは、いかんかった。莫大な利益を生む薬物のビジネスに執着する者は、末端の構成員にも山ほどおってな。まあ、心の底まで腐った外道どもは、ぶち殺して魚の餌にすればええから、楽やったんやけど……」


 今、凄く怖いことを言った気がするが、聞こえなかったことにしてスルーする。


「根っからの悪ってわけでもない連中は、さすがに殺すわけにはいかんやろ? やから、徹底した教育を施すしかなかった。『ヤクは許さん! 堅気に迷惑をかけるな!』っちゅう、当たり前の仁義を教え込むまでに、三年もかかってもうたわ」

「三年で、地域から薬物を一掃できたなら、凄いじゃないですか」


 俺は素直に感心して、言った。


「それでも時々、昔の羽振りの良さが忘れられんのか、今日みたいに、隠れて薬物の商売をする、どうしようもないのが出てくる。だからウチが、定期的に街を巡回して、そういう連中に睨みを利かせとかなあかんのよ。……因果なことやが、長らくヤクの撲滅に必死やったから、あの独特の匂い、覚えてしもてな。多量の取引なら、近くを通りかかれば、まず間違いなく、分かるんよ」


「へえ、凄いですね」


「ふふ、ウチが狼の獣人なら、もっと鼻が利いたかもしれんけどな。……戻ってきたばかりの頃と違って、今では信頼できる部下も仰山ぎょうさんできたけど、この巡回だけは、なかなか他のもんにはまかせられん。『ヤクは許さん』っちゅう姿勢を示すためにも、ウチが直々にやらなあかんからな。おかげで、ここしばらく、まったくレグラックの外に出かけられんわ。旅好きのウチとしては、つらいところやで」


 ふぅーむ、なるほどね。

 話しているうちに、少しぬるくなったお茶を一口すすり、気になったことを、俺は問うた。


「そういえば、あちこちの屋台とか、店の人と話してたのは、何か意味があるんですか?」

「たいしたことやないよ。最近困ったことはないか、聞いとっただけや。レグラックは観光地やからな。歓楽街も多いし、割とトラブルが発生しやすいんよ。ヤクザとまではいかんでも、世の中、荒くれものはいっぱいおるからな。んで、いざこざが起こっとったら、その間を取り持って、大問題に発展する前に、まぁるく治めるのも、ウチの仕事や」


 なんとまあ。

 薬物撲滅と、組織改革の間に、住民のトラブルにまで気を砕いているのか。


「それは、その、立派だと思いますけど、組織のボスが、そこまでしなくても、いいんじゃないですか? それこそ、部下の人に任せてもいいんじゃ……」

「かもな。まあ、これはある意味、罪滅ぼしなんよ。レグラックが薬物で滅茶苦茶になってしもた原因の一つは、ウチやからな」

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