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巨大吸血蝙蝠

 声の主は、洞穴の奥から飛翔して現れた。

 それは、蝙蝠のような羽が生えた、人型の生物だった。


『蝙蝠のような羽が生えた人間』という表現を使わなかったのは、そいつがどう見ても人間じゃなかったからだ。


 顔の半分を覆うような大きな二つの眼球に、病的な紫の肌。

 衣服は何も身に着けていない。


 モンスターだ。

 俺は、やれやれという感じで、肩をすくめた。


「おい、まさか、こいつが巨大吸血蝙蝠か? 表現おかしいぜ。この風貌なら、ギルドの依頼にも、『蝙蝠人間を退治してほしい』って書いておくべきだよな」

「きぇきぇきぇ……蝙蝠人間などと……無粋な呼び方を……俺にはちゃんと名がある、バゴブロ……」


 俺は、蝙蝠人間が名乗りを上げている最中に、閃光魔法で攻撃した。

 これから駆除する対象の名前なんて、知っても仕方ないからだ。


 しかし、蝙蝠人間は、目にもとまらぬ速さでそれをかわすと、洞穴の天井に、逆さに張り付いた。


 ちっ。

 素早いな。


「きぃきぃきぃ……無礼な女だ……お前は散々にいたぶり、辱めてから、最後に血を吸って殺してやる……」

「遠慮しておくよ」


 もう一度、閃光魔法を放つ。

 やはり、よけられる。

 レニエルも、剣を構えて切りかかるが、これもひらりとかわされる。

 ええい、クソ蝙蝠が、ちょろちょろしやがって。


「ふん、逃げ足だけは上等だな。卑屈な蝙蝠野郎らしいぜ」

「きぇきぇきぇ……口の悪い女め……すぐに黙らせてやる」


 黙らせてやるの『る』と同時に、蝙蝠人間はこちらに猛然と突進してきた。

 ばーか。

 わざと挑発して、お前が一目散に向かってくるのを待ってたんだよ。

 これなら、狙いが定めやすいからな。


 俺は奴が突っ込んでくるのと同じスピードで後退し、閃光魔法を浴びせた。

 命中。

 蝙蝠人間は、素早さだけは大したものだが、体は脆いようで、あっという間に全身を焼かれ、爛れた喉で断末魔の声を漏らした。


「きぇ……きぇ……き、さま……人間にしては……足が、速すぎる……いったい……何者……」

「なに、大した者じゃない。あんたがさっき言った通り、無礼で口の悪い、ただの女だよ」


 俺は、とどめとばかりにもう一発、閃熱魔法を放つ。

 それで、蝙蝠人間は完全に塵と化した。

 レニエルが、バンザイして喜ぶ。


「やりましたね、ナナリーさん! 凄いです! あの怪物と、ほとんど同じ速さで動くなんて!」


 そりゃまあ、元シルバーメタルゼリーだからね。

 足の速さには自信があるさ。

 なんにせよ、冒険者としての初仕事が無事に片付いてよかった。


 とっとと帰ろう。

 振り返り、そこで、思い出した。

 入り口が、何かでふさがっていることに。

 俺たちは、それでも入り口に向かって歩きながら、相談する。


「なあ、どういうことだと思う? さっきの重たい音。あれと同時に、入り口がふさがったんだよな」

「まるで、誰かが岩でも押しているような音でしたね」

「……あの蝙蝠野郎に仲間がいて、俺たちを閉じ込めようとしたのかな」

「あり得ますね。充分注意して進みましょう」


 そして、洞穴の入り口にたどり着く。

 やはり、大きな岩で、そこは塞がれていた。

 俺とレニエル、二人がかりで、思い切り押してみる。


 むぅ……

 ビクともしない。

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