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探偵ごっこ

 俺たちは、気づかれないように、ちょこちょこと尾行する。


 ヴィルガが焼き鳥を全て食べ終えるころ、彼女は色とりどりの瓶が並ぶ店舗に(どうやら、酒屋のようである)入り、またしてもその店の主人と話をして、小さな壺いっぱいの酒を貰い、「おおきに」と笑って、再び歩き出す。


 店を変え、相手を変え、そんなことが6回ほど続き、裏路地に差し掛かった頃、イングリッドが、退屈そうに大あくびをかいた。


「つ、つまらん……ただの食べ歩きではないか。私たちは、無意味な探偵ごっこで、人生の貴重な時間を無駄にしているのではないか?」


「す、すまん……ほら、ヴィルガさんって、なんとなく危険な雰囲気のある人だから、まさか、こんな何の変哲もない日常を過ごしてるとは思わなかったんだよ」


「まあ、お師匠が、よくないことに首を突っ込んでるのではないと知れて、一安心だ。そろそろ戻ろうか」


「そだな。帰って筋トレでもするか」


 そう言って、身を翻しかけた時、背筋が凍り付いた。

 何故か。

 恐ろしいほどの、怒気をはらんだ殺気が、伝わってきたからだ。


 ゴクリを唾を飲み込み、視線から外しかけたヴィルガの姿を、再び捉える。


 ゾッとした。

 彼女が、怒っていたからだ。


『怒髪天を衝く』という言葉がある。

 視線の先にいるヴィルガは、その言葉の具現だった。


 闘気のようなもので、黄金の髪の毛は逆立ち、尖った牙をむき出しにして、真紅の瞳に、憎悪の炎を燃え滾らせている。


 ヴィルガは普段、基本的に朗らかな笑みを浮かべてばかりなので、これほど恐ろしい表情をするなんて、想像もしていなかった。


 一瞬、無断で後をつけてきた俺とイングリッドに対して怒っているのかと思い、恐ろしさのあまり、恥ずかしながら下半身を濡らしかけたが、どうやらヴィルガの怒りは、路地裏でこそこそと何かをしていた、二人の男に向けられているようである。


 明らかに一般人とは違う、ヤクザ風の男たちだった。


 二人の男は、哀れなほどに震えあがり、上ずった声で、目の前の猛獣に対し、申し開きをする。


「姐さん、これは、その、違うんですよ。たまたま……」

「黙れ」


 卑屈な愛想笑いを浮かべて、必死に言い訳を並べ立てていた男の言葉が止まった。


 止まって、当然だった。

 ヴィルガが軽く腕を薙ぎ払い、男の首から上を、切り落としたのだ。

 頭がなくなって、言葉をしゃべることのできる人間など存在しない。


 惨劇を間近で見ていたもう一人の男は、悲鳴を上げることすらできず、金魚のように口をパクパクと開閉して、その場に尻もちをついた。腰が、抜けてしまったのだろう。


 ヴィルガはゆっくりと彼に近づき、すぐ側に落ちていたアタッシュケースを蹴飛ばして、中身を露出させた。


 それは、小分けにされたいくつかのビニール袋に入った、白い粉だった。

 大きく舌打ちをして、ヴィルガは吐き捨てるように言う。


「レインズ・カルテルは、もう二度とヤクの取引はせん。ウチは、前に、そう言うたな?」


 尻もちをついた男は、何度も、何度も頭を上下させ、頷いた。


「じゃあ、これはなんや? まさか、うどん粉やなんて、言うつもりはないやろな」


 ヴィルガは、獣の瞳で男を睨みつけ、獰猛な笑みを浮かべた。

 それで、恐怖が頂点に達したのか、男は過呼吸を起こし、とても問答ができる状態ではなくなってしまった。


 小さくため息を吐くと、ヴィルガは浴衣の内側から、小さな貝殻のようなものを取り出し、話しかける。……どうやら、携帯型の魔法通信装置のようだ。


 しばらくすると、向こう側から、これまたどう見ても一般人ではない男たちがやって来て、ヴィルガの指示で、首から上がなくなった死体と、転がっている頭を片付け、ひきつけを起こしたように痙攣を続けるもう一人の男を、どこかに運んでいった。

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