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適正

 俺の期待を感じ取ったのか、ヴィルガは一度咳払いして、言う。


「色々考えてみたんやけどな。あんたが一ヶ月で、ウチの顔面に一発いれられるくらいになるには、普通に訓練しとったらまず無理や。っちゅうわけで、ちょっと特殊な方法を使おうと思う」


「特殊な方法?」


「うん。……ただ、その方法は、誰にでもできることやないから、あんたに適性があるか、今から見せてもらうで」


「わかりました。それで、いったい何を見るんです?」


「うん。ちょっと、腕、出してくれるか」


「はい。こうですか?」


 言われるがままに、俺は腕を突き出す。

 ヴィルガも俺に向かって腕を伸ばすと、突然、彼女の爪が鋭く伸びた。

 まるで五本のナイフだ。


「驚いたか? だいたいの獣人は、こんなふうに、爪の出し入れが自由なんや」

「は、はあ。それで、その、伸びた爪で、何するんですか?」

「うん。言いづらいんやけど、ちょっと、あんたの腕、切ってええか?」

「え゛っ!?」


 腕を?

 切る?

 何故?


 言葉以上に、俺の顔が『そんなの嫌です』とアピールしていたのだろう。

 ヴィルガは困ったように笑う。


「切る言うても、ちょっとやて。ほんのちょ~っと切るだけ。そうせんと、適性を調べられんのよ。な? ええやろ? 痛いのは最初だけやから……」


 なんか、最後の方はいやらしい頼み方になって嫌だったが、腕を切らないと適性が調べられないと言うなら、どうしようもない。俺は、覚悟を決めて頷いた。


 次の瞬間、目にもとまらぬ速さで、ヴィルガの爪が俺の腕――その表面を走り抜ける。


 恐るべき早業はやわざだ。

 凝視していなければ、切られたことに気づかぬほどの神速。

 つぅっと赤い血が流れた後、痛みが、遅れてやってきた。


 ヴィルガは、傷口をじっと観察している。


 なんだ?

 いったい、何を見ているのだろう?


 二十秒程黙って、傷と、垂れ落ちる血を眺めた後、ヴィルガは懐から取り出した軟膏を、傷口に塗ってくれた。


「これでよし、と。表面をちょっと切っただけやから、すぐ傷はふさがるやろ」

「ありがとうございます。……あの、それで、俺に適性があるか、わかりましたか?」


 俺の問いに、ヴィルガは右手の人差し指と親指をくっつけて、〇のようなサインを作った。

 たぶんだが、大丈夫って意味なのだろう。


「あんた、獣人でもないくせに、丈夫な血管しとるな。これなら、レグラックにおるあいだ、みっちり特訓すれば、最低限実戦で使えるレベルの『アクセラレーション』が覚えられるわ」


「丈夫な血管って……俺の腕を切って、血管を見てたんですか?」


「せや。頑丈な血管でないと、今から教える『秘策』で、勢いが強くなった血の流れに耐えられず、破裂してまうからな」


 血管が破裂って……どんな秘策だよ。

 自分の体から血が噴き出すことを想像して一瞬青ざめたが、俺は不吉なイメージを振り払って、問い返す。


「今、『アクセラレーション』って、言ってましたよね。それが、『秘策』の名前なんですね」


 ヴィルガはゆっくりと頷き、言葉を続ける。


「そういうこっちゃ。いや、『秘策』っちゅうより、『秘技』っちゅうた方が適切かな? ナナはどう思う?」


「どうって言われても、そもそも俺、その『アクセラレーション』がなんなのか分からないんで、聞かれても困りますよ……」


「それもそうやな。『アクセラレーション』っちゅうのは、分かりやすく言うと、特殊な呼吸法で血液の流れを一気に加速させてな、一時的に使用者のスピードを高速化させる技なんよ」


「血液の流れを一気に加速!? そんなことして、大丈夫なんですか!?」


「普通はあかんよ。さっきも言うたけど、ドババーッて流れる血の勢いに耐えられずに、血管がドカーンってなってまうから、あっという間にオダブツや。せやから、この技を使いこなせるのは、体の内側も外側も頑丈なウチら獣人か、あんたみたいに生まれついての強靭な血管の持ち主だけや」


「は、はぁ……なるほど」


「ふふ、あんた昨日、パンチするときに腕がびよーんって伸びたやろ? ああいう特異体質の持ち主は、だいたい血管が強いんよ。んで、今日実際に腕を切って調べてみて、やっぱりウチの予想通りやったっちゅうわけや」


「そ、そうなんですか。なんにせよ、俺に適性があって良かったです」


「せやな。ちなみに、血液の流れが速くなると、なんで体のスピードまで速くなるのか、その原理はウチにもよう分からん」

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