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ヴィルガの実力

 俺は両腕を上げて構え、ヴィルガと対峙した。

 ヴィルガは、手をだらりと下げたまま、ごく自然な立ち方で、微笑を浮かべて俺を眺めている。


 ……こうして向き合ってみても、イングリッドが言うほど、ヴィルガが強いとはとても思えない。


 どうひいき目に見ても、ただの小柄な女の子である。


 俺は、思わず問いかけた。


「あの、戦うっていっても、ほら、ルールとか決めたり、その、防具とか、つけなくていいんすか?」

「そんなんええて。どうせ、ナナの攻撃はウチに当たらんし、ウチからは、本気で攻撃せえへんから」


 むむむ。


 そりゃ、ヴィルガは七聖剣序列第二位の猛者で、俺よりはるかに強いというのは分かっているが、それでも、こうもキッパリ、俺の攻撃はどうせ当たらないと言い切られると、少しだけムッとする。


 ……本当にあたらないか、ちょっと本気で試してみるか。


「それじゃ、いきます」


 俺は小さく礼をして、頭を上げると同時に、銀の鞭でヴィルガの足を狙った。

 若干不意打ちに近いタイミングだが、まあ、挨拶した後だし、礼儀的には、ギリギリセーフだろう。


 さあ、どう反応する?

 いくら実戦経験豊富でも、離れた距離から、伸びるパンチで足を狙われるなんてことは、あまりないはずだ。


 ビックリして、直撃とまではいかなくても、軽くヒットするくらいのことはあるのでは……という俺の甘い夢想は、すぐに打ち砕かれた。


 ヴィルガは、縄跳びをするような気軽さで、ぴょんと飛んで俺の拳をかわした。


 すごいな。

 予備動作など全くなかったのに、垂直方向に軽く1メートルは跳んだぞ。

 まるで猫のようなバネと瞬発力だ。


 音を立てず、静かに着地すると、ヴィルガは涼しい顔でこちらに笑みを向けてくる。


「ほお、腕が伸びるとは、めずらしい体質やな。……ふふっ、それにしても、礼からいきなりの奇襲とは、『どうせ当たらん』って言われて、ちょっとカチンときたんか?」


 うっ。

 さすがは経験豊富な達人だ。

 今の一撃だけで、俺の心情を読み取ったらしい。

 図星を突かれた俺は、手を振って、慌てて釈明する。


「い、いや、そんな。俺はただ……」

「ええて、ええて。武術家は、それくらいの負けん気がないとな。ほら、どんどん打ってきい」

「あっ、はい。それじゃ、ガンガンいきます」


 そう宣言し、一度深呼吸する。

 それから、思いつく限りの最高の攻撃を、雨あられと浴びせた。


 だが、当たらない。

 まったく当たらない。


 まるで、自由自在にしなる、柳の枝を叩きに行ってる気分だ。

 三分程、がむしゃらに攻撃をした後、一旦距離を取り、肩で息をする俺を見て、ヴィルガはコリコリと頭をかいた。


「うーん、身のこなしや、技の一つ一つはなかなかええねんけど、全体を見ると、チグハグな攻撃が目立って、ごっつバランス悪いわ。あんた、なんか変な修行の仕方したやろ?」


 やはり、見る人が見るとすぐに分かってしまうのか。


 一応は達人レベルの技が身についているはずなのだが、使い方が、まったくなっていないのだろう。『本来ならこういう覚え方をするべきではない』と言っていたジガルガの言葉が、しみじみと身に染みる。


「でもまあ、ある程度は基礎もできとるし、これならみっちり鍛えれば、一ヶ月で今よりちょっとはマシになるやろ。……さて、そろそろウチからも攻撃するで。ちゃんと防御してな」


 俺の連撃を、かなりの運動量でかわし続けたというのに、ヴィルガは汗一つかかず、朗らかにそう言う。


 ……いったい、どんな攻撃をしてくるんだろう。

 恐怖感より、好奇心の方が強く湧いてくる。

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