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人生いろいろや

「あ、ありがとうございます。その、あまり手持ちはないんですけど、訓練代のようなものも、払いますんで」

「ええて、そんなん。それより今、店から出てくるとき、見えたんやけどな。インコがウチ以外の人間と、あんなに楽しそうに話しとるの、初めて見たわ。あんた、これからもこの子と、仲良うしたってな」


 ヴィルガはそう言って背伸びすると、イングリッドの頭をワシャワシャと撫でた。


「ちょ、お師匠、人前でこんな、子供扱いするのはやめてください……私はもう、二十歳はたちなんですよ?」

「なに言うとる。二十歳なんて、まだまだガキやん。いいから素直に撫でられとき」

「あううぅ……」


 照れくさそうなイングリッドを見つめるヴィルガの微笑みには、温かな母性が満ち溢れている。ファーストインプレッションは正直アレだったが、思ったより、ずっと優しい人なのかもしれない。


「ほな、ウチの家で、早速訓練始めよか。銀髪ちゃんが、強うなって、何のために、誰と戦うのか、家につくまでに、あんたのこと、色々聞かせてや」


 こうして、俺とイングリッド、ヴィルガの三人は歩き始め、雑踏の中を進みながら、話を続けた。


 ヴィルガは、3000年生きている古代人の店主や、そいつの作った人造魔獣については現実感が湧かないのか、あまり関心を示さなかったが、ジガルガを――友達を助けたいと言う俺の気持ちには、かなり共感してくれたようであり、彼女の自宅の前に着くころには、指導する気満々になってくれていた。


 で、そのヴィルガの自宅なのだが……

 その……

 どう見ても廃屋である……


 それも、ただ朽ち果てたと言った感じではなく、過去に何があったのか、あちこちに刀傷や、血の跡らしきものが残っており、まるで幽霊屋敷だ。


 この辺りのヤクザ者たちの顔役なら、いくらでも良いところに住めるだろうに、何故こんなところ(まあ、俺もボロ宿に住んでいるので、人の住処をどうこう言える身分ではないが)で暮らしているのだろう?


 だが、さすがの俺も、初対面の相手に『なんで廃屋に住んでるんすか?』とは聞けず、ボロボロの門の前で立ち尽くしていると、隣にいたイングリッドが、何の迷いもなくヴィルガに尋ねた。


「お師匠、ここは人の暮らす環境とは思えません。何故こんな汚いところに住んでいるのですか?」


 うーむ……無礼ではあるが、清々しいほどに、単刀直入な問いだ。


 ヴィルガは特に気を害した様子もなく、「人生いろいろや」とだけ言って、中に入っていったので、俺とイングリッドもそれに続く。意外なことに、居住スペースは思ったより小奇麗に片づけられており、そこそこの広さの庭まであった。


 ヴィルガは縁側からぴょんと飛んで庭に降りると、家の中をきょろきょろと見ている俺、そして、勝手に戸棚を漁っているイングリッドに声をかけた。


「ほな、早速指導を始めよか。銀髪ちゃんは、こっちに降りてきてや。インコは中で休んどったらええで」


 呼ばれるまま、素直に俺は庭に降り、これからの指導に備え、軽く準備運動をする。

 何度かジャンプをしていると、ヴィルガが感心したような声を上げた。


「ほぉ、なかなかええ身のこなしやな。身体能力は思ったより高そうや」


「どうもです。それで、あの、まずは何をすればいいですか?」


「うん。そのまえに、銀髪ちゃん……ええっと、ナナリーちゃんやったな。ちょっとええか?」


「はい、なんですか?」


「ウチな、名前にちっちゃい『ッ』とか、伸びる『ー』が入っとると、ごっつ呼びにくいねん。あだ名で呼んでもええ?」


「もちろん構いませんよ。好きなように呼んでください」


「おおきに。……せやな、シンプルに『ナナ』って呼ばせてもらうわ。どや、可愛くてええやろ?」


「はぁ、まぁ」


「そしたら、とりあえずナナの今の実力が見たいから、ちょっと戦ってみよか」


 むっ。

 いきなりか。

 だが、望むところだ。

 こちらとしても、ヴィルガがどれほど強いのか、かなり興味があるしな。

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