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インコ

「そ、そうか。……なんか、凄い人だったな。俺、これからあの人に武術を習うのか。ちょっと不安になってきたよ」


「大丈夫だ。前にも言ったが、お師匠の指導力は本物だ。安心して身を任せて構わんと思うぞ。まあ人格はアレだがな」


「うん……お前がそう言うなら、俺も信じてみることにするよ。……ところであの人、お前のこと『インコ』って呼んでたけど、あれどういう意味?」


 何気なく聞いた問いだったが、イングリッドは気恥ずかしそうに頬を染めてしまう。


「ただのあだ名だよ。お師匠にとっては、私の名前は長くて呼びにくいらしく、会ったばかりの時から、イングリ子と呼ばれていた。それが段々縮まって、最終的に『インコ』になったわけだ」


「なるほどね。語呂もいいし、呼びやすそうだ。今度から、俺もインコって呼ぼうかな」


「やめてくれ、お師匠は気に入っているようだから言えないが、鳥のインコみたいで、迫力がなくて嫌なんだ」


「えー、可愛くていいじゃん」


「可愛いから嫌なんだ!」


 そんなふうに談笑していると、やっとこさ麻雀勝負が終わったのか、ヴィルガが満足げな様子で出てきた。ホクホクとしたエビス顔から察するに、どうやら大勝したらしい。


 ヴィルガは手を振りながら、こちらに微笑みかけてくる。


「おう、銀髪の姉ちゃん、さっきは話の途中で、すまんかったな。おかげさんで、バッチリ大勝ちさせてもろたわ。ふふふ、途中までは調子がイマイチやったんやけどな、姉ちゃんが来てから、急にツキが回ってきよったわ」


「は、はあ……それは何よりでした」


「あんたはウチの、幸運の女神かもな。ほれ、見てみ、凄いやろ。ひと月程度なら働かんでもええくらいの札束や」


 浴衣の前を大きくはだけて、たわわな胸の谷間を見せてくるヴィルガ。

 その中には、彼女の言う通り、かなりの厚みがある札束が挟まっていた。


「あの、もしかして、麻雀で生活費、稼いでるんすか?」

「麻雀は趣味や。ほんでも、時にはこうして大勝ちして、たんまり儲けることもあるっちゅうだけや。基本的には、ここらへんのヤクザもんらの顔役として、まあ、いろいろやって、生計を立てとる」


 いろいろってなんだよ……怖いよ……

 この人、もしかして女ヤクザなんじゃないの……?

 一緒に麻雀やってた怖そうなお兄さんに『姐さん』って呼ばれてたし……


 ここに来る前にイングリッドから聞いた話では、悪党には一切の容赦をしない人らしいが、それなのに何故、ヤクザ者たちとつるんでいるのだろう。


 そんな俺の疑問を、イングリッドが代わりに口にした。


「お師匠! 納得いきません! お師匠ほどの人が、何故あんなチンピラ連中とつるんでおられるのですか!?」


 むくれたイングリッドに対し、ヴィルガはニコッと笑顔を返した。


「あいつら、ヤクザもんっちゅうても、ほんまもんの悪党やない。この辺りの、ギャンブルや水商売を仕切っとるだけの連中や。盗みも殺しも薬物の取引もやらん。まあ、喧嘩くらいはするが、それくらいは大目に見てやらんとな。堅気の住民さんや、観光客に悪さしようとしたら、そんときはウチがしめるから、安心してや」


 うん?

 結局、チンピラとつるんでいる理由を答えていない気がするが、まあ、俺にとってはどうでもいいことだ。この人には、この人なりの人生があるのだしな。


 納得いってなさそうなイングリッドには悪いが、俺には時間がないんだ。

 今の話題を打ち切って、本題に入らせてもらうぞ。


 俺は、ヴィルガの正面に立って、大きく頭を下げた。


「さっき、店の中で言いかけましたが、改めて自己紹介させてもらいます。俺は、ナナリーといいます。今日は、ヴィルガさんにお願いがあって、やって来ました」


「ウチに? なんやろ。あっ、ぜになら貸さんで? 銭の貸し借りはトラブルのもとやからな」


「いえ、お金には困ってないです。その、イングリッドから、あなたは世界最高峰の武術家と聞きました。俺、ちょっと事情があって、あと一ヶ月で、今よりずっと強くならないといけないんです。どうか、鍛えてはもらえないでしょうか」


「ええよ」


 軽いなー、この人。

 いや、申し出を受けてくれたのは嬉しいが、あまりの軽さに拍子抜けしてしまう。

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