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けしからんお店

 異国情緒あふれる街並みや、道行く人々を眺めていると、俺の後を追って外に出たイングリッドが、どこで手に入れたのか、帽子とサングラスを差し出してきた。


「この辺りは日差しが強い。特に今の時間帯は、日光を遮る工夫をしないと、目を傷めるぞ」


 そう言うイングリッドは、すでにバッチリサングラスを着用し、頭には帽子もかぶっている。


 テレポーター内の魔導師から購入したのだろうか。

 さすが、旅慣れしているだけあって、手際のよいことである。


 俺は、イングリッドから日よけのマストアイテム二つを受け取って装備しながら、言った。


「ありがとな。さて、観光に来たわけじゃないし、早速、ヴィルガ・レインズさんを探さないと」

「ああ。お師匠のオーラは常人とはケタ違いだから、すでに魔装コユリエが存在を感知している。すぐに会うことができるだろう」


 うーむ。

 本当に、何から何まで、頼りになる女だ。


 このイングリッドが、『自分など足元にも及ばぬほど強い』と主張するヴィルガ・レインズとは、どんな人物なのだろう。


 男性名のようにも聞こえるし、女性名のようにも聞こえる。

 イングリッドに、『お前のお師匠って、男なの? 女なの?』と聞こうかとも思ったが、やめた。


 ヴィルガ・レインズが男だろうと女だろうと、別にどっちでもいいからだ。


 すべては、ジガルガを救うため。

 俺を強くしてくれるなら、どんな相手の、どんな教えにも、素直に従うつもりである。


 俺たちは、現地の人や、明らかに観光客と思しき集団でごった返す雑踏をもくもくと進み、一時間は歩いた頃、イングリッドは、あまり小奇麗こぎれいとは言えない建物の前で足を止めた。


「ここだ。この店の奥に、お師匠はいらっしゃる」

「えっ、でもここって……」


 明らかに、イリーガルな雰囲気の店だ。

 表の看板には、『ストリップバー・バンバン』と書いてある。


「……別に、人の趣味をどうこう言う気はないけど、ヴィルガさんって、こういうお店、好きなの? もしくは、アルバイトでストリッパーやってるとか?」


「断じて違う。……いや、そうでもないか。お師匠なら、気まぐれでそういう仕事をしてもおかしくないかもしれない」


「気まぐれでストリッパーになるって、どんな武術家だよ……」


「奔放な方だからな。まあ、恐らくは酒を飲みに来ているのだろうが」


「普通に考えたらそうだろうね。んじゃ、入ろうか」


 建て付けの悪い玄関ドアを開けて中に入ると、ギラギラとした照明が降り注ぐ舞台の上で、ストリッパーのお姉さんが、ちょうど上半身に身に着けているものを取り外した瞬間だった。イングリッドが、それをじっとりと見つめ、小さく囁く。


「うーむ……けしからん。実にけしからん店だ……」

「ほら、見てないで行くぞ。ヴィルガさんは、店の奥にいるんだよな」

「むっ、そうだった。いや、しかし、実にけしからん……」


 前から思ってたけど、こいつ、明らかに同性愛の気があるよな。


 まあ、それはいいんだ。

 俺は、ストリッパーに首ったけのイングリッドを引っ張るようにしながら、店の奥に向かった。


 それで気がついたのだが、この店、客が酒を飲みながらストリップを見る場所と、奥の場所の間に頑丈な仕切りを設け、明確に区別しているようだ。


 仕切りの一部は両開きのドアになっており、そのドアの前で、いかにも強面こわもての大男が腕を組み、あちら側へ、勝手に入っていけないように見張っている。


 イングリッドが、大男につかつかと歩み寄り、話しかけた。


「ちょっと、そこを通りたいのだが。知り合いが、中にいるんだ」

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