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ドラマチックな出会い

「なんだと?」

「きみは、ジガルガの入っていた魔導書を燃やし、その灰を吸い込んだから、ジガルガに取りつかれたと思っているようだが、それは違う。私が、特殊な術法を用いて、ジガルガをきみに取りつかせたんだ。これは、ジガルガ本人も知らぬことだがね」


 何言ってんだこいつ?

 こいつが、なんで俺に付きまとうのかを聞き出したかったのだが、話がこんがらがってきやがった。

 ジガルガを、俺にあげただって?


「おい、意味わかんねーぞ。あんたの言ってたこと、まるっきり嘘だったってことか? あんたのご先祖のこととかも?」


「いやいや、全部じゃないよ。九割は本当さ。嘘なのは、『私自身ではジガルガの入った本を処分できない』って言った部分だけだよ。そういう設定にして、きみにジガルガをあげたほうが、二人の出会いがドラマチックになると思ってね」


「ますます意味わからん。俺とジガルガをドラマチックに引き合わせて、あんたに何の得があるんだ?」


「ちゃんとした理由があるんだよ。きっと、きみには理解できないだろうが」


「だろうな。あんたみたいな頭のおかしい野郎の考えなんて、理解したくもねえ」


「ふふふ、酷い言われようだな。でもね、私の頭がおかしいのも、無理はないんだよ。私は、父――ジガルガの創造主に、不死の魔法をかけられ、死にたいと思っても死ねず、これまで、かれこれ3000年は生きてきたんだ。少しくらい狂っていても仕方ないと思わないか?」


「よくもまあ、そんなデタラメを……この世には、寿命を延ばす魔法すらないんだ。不死の魔法なんて、あるわけねーだろ」


 店主の妄言にあきれ果てている俺の頭に、ジガルガの声が聞こえてくる。


『いや、それが、あるんだよ。古代の禁術で、肉体を消し、思念だけを永久にこの世にとどめておく、呪いに近い方法だがな』

「マジか。……だけど、そんな、永遠に生きられる魔法があるなら、創造主様とやらが、自分に使えばいいじゃん」


 そんな俺の問いに答えたのは、ジガルガではなく、店主だった。


「この禁術はね、対象が幼児の時に使わなければ効果がないんだ。……私はね、人生の中で、もっとも好奇心溢れる、見るもの聞くもの、なんでも楽しい時に、父によって、こんな、まぼろし同然の生き物にされてしまったのだ。人類抹殺などという、くだらない思想を達成させるためだけにね。どうかな? 少しは、私のことを哀れに思ってくれるかな?」


「……多少はね。でも、俺はあんたが嫌いだ」


「それは残念だ。さて、話を元に戻そうか。私がきみに、ジガルガを引き合わせた理由だったね」


「ああ」


「簡単に言うと、私の趣味を、より豊かなものにするためだよ」


「趣味?」


「そうだ。私はね、人間観察が趣味なんだよ。これまで、3000年間、色々な遊びをやってきたが、人間観察に勝る楽しみはない。しかし最近は、あまり興味をそそる人間がいなくてね。ほとほと退屈していたんだ。そこに突然、君が現れた。平静をよそおって応対したが、久々に面白い人間が現れたと、内心、胸が躍ったよ」


「けっ。面白い人間が見たいなら、コメディアンでも追っかけてろよ」


「一時期、コメディにはまったこともあるが、ああいうのはだいたいパターンが同じでね。1500年前に卒業したよ」


「そうかい。ワンパターンのコメディでも、俺の日常よりは面白いと思うけどね」


 チッチッチッチッという音が、あちらこちらから響き渡る。

 数瞬、何の音か分からなかったが、少し考えて、店主が舌を鳴らしている音だと理解できた。

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