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同じ気配

 何か、声をかけてやるべきだろうか。

 いや、でも、本人が何度も『問題ない』って言ってるんだから、余計なお世話かなぁ……


 そう悩んでいると、硬く緊張した声で、ジガルガが短く言った。


『落ち着いて聞け』


 その、あまりにも真剣なトーンに、俺は、返事ができなかった。

 ジガルガは、言葉を続ける。


『同じ気配がする』


 何が?

 何と何が、同じ気配なんだ?

 俺がそう思ったのと同時に、ジガルガは疑問に答えた。


『ぬしの記憶で見た、あのアーニャと、この店の主人。とてもよく似たオーラの持ち主だ。外の幻術のせいで、中に入るまで気がつかなかったが、間違いない。創造主様の子孫と、邪鬼眼の術者――アーニャは、何か関係がある』


 俺は、つばを飲み込んだ。

 冗談だろと言い返したかったが、ジガルガはこんな冗談を言わない。


 一度深呼吸し、気持ちを整える。

 そして、考える前に、俺の体は動いていた。

 店主の前につかつかと歩いていき、単刀直入に、聞く。


「あんたが、アーニャの『ご主人様』か?」


 本当なら、言い逃れ出来ないように、もっと持って回った問いかけをした方が、良かったのかもしれない。


 頭の中で、ジガルガが何やら喚いている。

 すまん。

 まさか、いきなりこんなふうに、俺が聞きに行くとは思わなかったんだろうな。


 だが、駆け引きなんざクソくらえだった。

 この店主が、さんざん俺の周りを嗅ぎまわっていた野郎なら、今すぐここで、一発ぶん殴ってやる。


 頭にあるのは、その想いだけだった。


 店主は、笑った。

 いや、目の前にあるのは、浮き上がった黒ローブだけなので、もちろん顔は見えないのだが、俺には、奴が笑ったように感じたのだ。


 俺は、吠えた。


「なんか面白いかよ。この覗き野郎」


 今度は、ハッキリ笑い声が聞こえた。

 店主は、俺を見て笑っているのだ。


 もう間違いないだろう。

『あんたが、アーニャの『ご主人様』か?』と問われて、人違いなら、こんな態度は見せないはずだ。


 俺は、鋭く息を吐いて、黒ローブの中心めがけて、渾身のストレートパンチを打ちこんだ。


 ばふっ。


 布を叩いただけの、ゆるい手ごたえ。

 なんだこいつ、見た目通り、実体がないのか?

 自分の拳を見つめて思案する俺に語り掛けるように、周囲から声が響いてくる。


「私がアーニャの主人だと、どうしてわかったのかな? ぜひ、教えてもらいたい」


 ボソボソと呟くようだった喋り方が、よどみのないものに変わっているが、これは、あの店主の声だ。


 とうとう認めやがった。

 やっぱり、こいつがアーニャの『ご主人様』だったのか。

 こんな奴に、答えてやる義理もないのだが、俺は叫ぶように、若干誇らしげに言う。


「お前が捨てたジガルガのおかげさ! 今、あいつは俺と半分意識を同化させていて、それで、あんたとアーニャが、どうやら関係しているようだってことに、気づいてくれたんだ!」


 この店主に、ジガルガが凄い奴だってことを、教えてやりたかった。

 素直に感心したような店主の声が、響き渡る。


「ほう。意識の半同化。それはすごい。互いに相手のことを信頼していないと、まずできない芸当だ。短い期間で、随分と仲良くなったようだね。やはり、君にジガルガをあげたのは正解だった」


「あげただって? 聞き間違いかな。あんたは、ジガルガの入った本を処分してくれって、俺に頼んだんだぜ」


「ふふふ、あれは嘘だよ。『先祖に託された危険な人造魔獣の処理に悩む、謎めいた古道具屋の店主』……なかなかの名演技だっただろう? 本当は最初から、きみにジガルガをあげるつもりだったんだ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] ここに来て、謎めいた人物だったアーニャとご主人様のうち、ご主人様が先に判明するとは。 いやしかし、姿形を見たわけでもないから、まだ『ご主人様』はいつでも行方を眩ませる事が出来るが。 [気に…
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