久しぶりの来店
相変わらずボロッボロな店の前で、一人立ち尽くすと、俺は軽く息を吐いて、言う。
「ここに来るの、かなり久々だな。しっかし、前にも思ったが、今にも崩れそうな建物だ。でもこれ、幻術なんだっけ?」
『うむ。それだけではなく、外から中の気配を察知しにくいように、一工夫されているようだ。目を凝らして見て、せいぜい魔力の揺らぎを感知できる程度だな。うーむ、実によくできた幻術だ。……ここが、創造主様の子孫が営む店舗か』
スーリアで大トカゲの水大砲にやられて、精霊の服がダメになってしまったので、いずれは新しい防具を買いに来るつもりだったが、なんとなく、一人でこの不気味な店に行く気が起こらず、かといって、他のイマイチな店に行くのもちょっと……って感じだったので、けっこう久しぶりの来店である。
「それにしても、お前、別に起きていなくていいんだぞ? とりあえず修行も終わったことだし、意識を元に戻して、寝た方がいいんじゃないのか? ほら、その、この店は、お前の……」
そこで、俺は口ごもる。
この店の主人は、ジガルガを作った創造主の子孫であり、不要となったジガルガを捨てたのだ。
普通なら、自分を捨てた相手の顔など、見たくもないだろう。
だから、道中何度も、『そろそろ寝たら?』と進言したが、ジガルガは大して気にした様子もなく『問題ない』と言うばかりだった。
『ここに来るまでに何度も言っただろう。我の心にわだかまりはない。だから、まったく問題ない。むしろ、創造主様の子孫が息災である姿を見られるなら、喜ばしいことだよ』
「本当に? 無理してないか?」
『本当だよ。……いや、今現在、孤独な思念体として宙を漂うだけだったら、あるいは、創造主様の子孫を恨んだかもしれない。だが、そうだな……うむ、改めて口にするのは少々面映ゆいが、今我は、ぬしと共に毎日を過ごし、幸せだ。だから、何度も言うが、『問題ない』のだよ』
「そっか」
『毎日が楽しいのだ。できることなら、長々と眠りたくないと感じるほどにね。……おっと、ついペラペラと喋り過ぎた。さあ、中に入るぞ。ぬしは幻術を解くことはできぬだろうが、壁を探れば、中に入るためのノブが分かるだろう』
ジガルガの言う通り、ボロボロの建物の壁を探っていると、見えないノブらしきものが手に当たった。
俺はそれを捻り、入店する。
中に入ると、以前来た時と同じく、あちこちの棚や壁面に、貴重な業物の数々が乱雑に積まれていた。
どうやら今日は定休日ではないようで、店の中央奥にあるカウンターに、黒いローブがぷかぷかと浮かんでいた。
正体不明の、この店のご主人様だ。
「おや、いらっしゃい……お嬢さん、ひさしぶりだね……」
「どうも、店主さん。今日はけっこう金持ってるから、色々買って帰るよ」
「ふふ、そりゃありがたいね……さあ、ゆっくり見ていっておくれよ……」
短い挨拶を済ませ、俺は宝探しの気分で、棚を漁る。
さて、何を買おうかな。
体を守る鎧は当然として、ガントレットや、足を保護するレガースなんかも必要だよな。
ぬふふ。
資金が充分にあると、買い物って楽しいな。
その時、ゾワゾワするような感覚が、心の中から湧き上がってきた。
いや、違う。
ゾワゾワしているのは、俺の心じゃない。
俺と半分同化している、ジガルガの意識だ。
ふぅ。
問題ないとは言っていたが、こうして実際に、創造主の子孫に相まみえると、やっぱり色々、思うところはあるんだろうな。




