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本当の意味で使いこなすには

『俺の体を、気遣ってくれてるってわけか』

『まあ、一応な』

『嬉しいねえ』


 そこで、俺たちは黙り込み、しばらく静かに、夜の雑踏を歩き続ける。

 会話を再開したのは、俺からだった。


『まあ、このまま順調にお前の動きと技を習得していけば、俺も達人同然の強さになるわけだし、心配いらないよな。アーニャだろうがなんだろうが、どんとこいだ』


『……ぬしの思考は快活なのはいいが、少々短絡的なのが問題だな。達人の技を習得したからといって、達人になれるわけではないぞ。そこのところは、誤解しないようにな』


『えっ、どゆこと?』


『素晴らしい技を覚えても、それを本当の意味で使いこなすには長い時間がかかるということだよ』


 そりゃそうかもしれないが、今や俺も完全なる素人ってわけじゃないんだし、ある程度本腰入れて練習すれば、そこまで大量の時間をかけなくても、使いこなせるようになると思うんだけどなあ。


 そんなことを考える俺を諭すように、ジガルガは静かに言葉を続ける。


『本当なら、今やっているように、データをコピーするようなやり方で技を覚えるのは、あまり良い方法ではないのだ。未熟者の体に、突然達人の技と動きが流れ込んでくるわけだからね。場合によっては、心と体の動きがチグハグになりかねない』


『未熟者で悪かったね』


『すねるなすねるな。話を戻すぞ。武術の修行とは、そもそもが新芽から大樹を育てるように、時間をかけておこなうものだ。自分自身が、実戦の中で経験を積み、技を覚えながら、呼吸、使うタイミング、他の技との組み合わせ等を学んでいくのが、最も自然で、望ましい形だ。しかしまあ、今は緊急事態だからな、理想論ばかり語ってもいられないが』


『また、複雑な言い方するなあ……。さっき、俺の思考は短絡的なのが問題って言ってたけど、お前の場合は、難しく考えすぎるのが問題だな』


『これでも、できる限り分かりやすく説明しているのだがね』


『じゃあ、俺の論理的思考能力が足りないのが悪いんだな。そういうのも、お前と半分同化してる影響で、効率よく成長させられないかな』


『我を便利なパワーアップアイテム扱いするんじゃない。論理的思考を成長させたいなら、たくさん本を読んで勉強するんだな』


『勉強か。そりゃそうだな。……あのさ、ジガルガ。今日はありがとな、元気出たよ』


『急にどうした』


『いや、お前が無理に連れ出してくれなきゃ、今でもベッドでウジウジゴロゴロしてたかもしれないって思うと、やっぱりお礼を言っておくべきかなって思って』


 頭の中に、しばしの沈黙が流れる。

 どうやら、ジガルガは突然礼を言われ、照れているらしい。


『ぬしの元気がないと、ぬしに取りついている我も、居心地が悪いからな。感謝の気持ちがあるなら、帰ったらすぐに唐揚げを作ってくれ』


『それはいいけど、たまには唐揚げ以外のものとか食いたくならないわけ? 俺、一応他の料理も作れるんだけど』


『いらん。唐揚げがいい』


『はいはい。でも、いつも唐揚げだけじゃ味に変化がないし、唐揚げに合う、ねぎ塩風味のスープとかも、一緒に作るとするか』


『なんだそれは、初耳だな。唐揚げがうまくなるのか?』


『まあね』


『それは楽しみだ。よし、走って帰るぞ』


『おいこら、勝手に俺の足を走らせるんじゃない』


 そんなことを話しながら、俺たちは朗らかに夜の街を走り抜けていくのだった。

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