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激闘の記録

「お説教されなくても、身に染みてるよ」


 アーニャにチョークスリーパーで絞められた首をさすりながら、今度は俺が溜息を吐いた。

 ジガルガは、俺の枕元にすとんと腰を落とし、胡坐あぐらを組んで、話を続ける。


「奴が危険であることを認識したのなら、なおさらゴロゴロしてる場合ではないぞ」


「なんで?」


「わからぬのか? 殺す気はなかったとはいえ、『ご主人様』とやらは、傀儡かいらいであるアーニャに命じて、ぬしに直接危害を加えたのだぞ? これは、今までのコソコソとした干渉の仕方とは次元が違う」


「つまり、どゆこと?」


「奴らのぬしに対する干渉態度が、新しいステップに入ったということだ。次は、より露骨で、危険な干渉の仕方をしてくる可能性が高い。何の対策もせずにボーッとしていると、死ぬとまでは言わぬが、場合によっては、深刻な大怪我をするかもしれんぞ」


 俺は、身震いした。


 しかし、対策と言われても、あのアーニャが、真剣に襲いかかって来るとなれば、俺がどう抵抗しようと、すべては無駄な努力なのではないか?


 自分でも情けないが、随分と弱気になっている。


 でも、無理もないのよ。

 人間の姿になってから、これまで色々ピンチはあったけど、なんだかんだ言って、切り抜けてきた。


 俺には、自分の手で降りかかる火の粉を払う力があり、どんな災いにも負けないと、自信をつけていた。


 その自信が、ちびっこの姿になったアーニャに、なすすべもなくやられた敗北感で、消え去ってしまったのだ。


 こういうときは、どうすればいいんだっけ。

 確か、過去の成功体験を思い出すと良いと、何かの雑誌で読んだことがある。


 よし、やってみるか。

 俺が、いかにして強敵たちとの戦いに勝利してきたか。

 その激闘の記録を、振り返ってみるとしよう。


 グレートデーモンに襲われた時は……あっ、酒場のマスターに助けてもらったんだった。


 初めての冒険で、頭にボウガンの矢が刺さりそうになった時は……あっ、タルカスに助けてもらったんだった。


 イングリッドとの決闘では……うん、ジガルガがいなきゃ死んでたな。


 スーリアでの、ピジャンとの戦いは……あの忌々しいアーニャがいなきゃ、戦うまでもなく死んでいた。


 ……なんてこった。

 冷静に考えると、俺、自分の力だけで危険を回避したことなんて、ないんじゃないか?


 駄目だ。

 ますます落ち込んできた。

 布団に潜り込んで寝ちゃおう……まだ昼だけど。

 そんなウジウジとした俺の様子を見て、ジガルガが深く嘆息し、言う。


「まったく。気が強く、喧嘩っ早いくせに、ちょっとしたきっかけでションボリと落ち込んでしまう。よく吠える小型犬のようだな、ぬしは」


「メンタル的に弱ってるときに、そういうこと言われると傷つくんだけど……」


「ふむ。挑発してやる気を出させようと思ったのだが、これは重症だな。ただ戦いに負けたというだけでは、こうはなるまい。アーニャとやらに対する好意を、無下むげにされたのがそんなにつらかったのか? 奴の言葉ではないが、ぬしはすぐに人を好きになってしまうからな。まあ、それがぬしの弱点であり、良いところでもあるが」


「別にあんな奴好きじゃないんですけど……」


「ならベッドから出ろ。再び奴と戦わなければならなくなった時のために、我が稽古をつけてやる。喜べ、あらゆる達人の技を習得した我から、直接指導を受けられるということは、世界中の格闘家が、どれだけ望んでも得ることのできない僥倖ぎょうこうなのだぞ」


「えぇー……でも、今そんな気分じゃ……」


「出なければ、このまま枕元で、ぬしのことを小型犬呼ばわりし続けるぞ」


「それはやだ……」


 本当に嫌だったので、俺はしぶしぶベッドから出ると、ジガルガに促され、例の町はずれの広場に向かった。

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