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可愛い人

「う、うるせえ。そんなんじゃねーよ」


 図星をモロに突かれて、思わず頬が朱に染まる。

 アーニャは、からかうように言葉を続けた。


「きみのそういうところ、好きだよ。さっきの白銀の刃も、頭を狙わずに、肩口を狙ってたしね。ふふっ、頭を狙って直撃したら、僕が死んじゃうかもしれないって思ったんでしょ? 『顔面をぶん殴ってやる』って怒ってたのに、ほんと、優しくて、甘くて、可愛い人」


 またしても、図星である。

 自分の頬が、ますますカァッと赤くなるのが、鏡を見なくても分かった。

 気恥ずかしさに目をそらし、数瞬の後、視線をアーニャに戻すと、そこには誰もいなかった。


 どこだ?

 どこに消えた?

 キョロキョロと左右を見回していると、背後から声がする。


「ここだよ。ここ、ここ。戦闘中に、敵から目を離しちゃ駄目じゃない」


 クソッ。

 いつの間に、後ろに回り込まれたんだ?

 慌てて振り返ると、腹部に強烈な衝撃。


「がはっ!」


 激しい呼気と共に、すっぱいものが胃の中から湧き上がってくる。

 俺の腹――みぞおちの部分に、アーニャの小さな拳が深々とめり込んでいた。


 なんてパンチだ。

 スピード、キレ、破壊力。

 いずれも、プロのボクサーも真っ青な威力である。


『パワーもスピードも、防御力も半分以下』だと?

 冗談キツイぞ。

 これで半分以下なら、元の姿だったら、どれだけ強いんだ?

 俺は、戦慄していた。


 先ほどの『僕のパンチをまともに食らったら、硬化した部分ごと砕け散っちゃうかもしれない』というアーニャの言葉。


 これは恐らく、俺をあざけったのではなく、単に事実を述べただけなのだろう。


 元の状態のアーニャは、とても俺の勝てる相手ではない。


 ……だが、今の子供状態なら話は別だ。

 確かに、俺の腹をぶっ叩いたパンチは、凄かった。

 だが、まともに食らっちまったのは、俺が奴から目を離して、油断していたからだ。


 きちんと警戒していれば、充分に回避できるし、硬化能力で防御すれば、むしろアーニャの拳を破壊してやることだってできる。


 アーニャは、ご主人様を満足させるための『ショー』を見せたいだけで、俺をひどく痛めつけたり、ましてや殺したりする気は毛頭ないようなので、このまま倒れてしまえば、きっと戦いは終わりになるだろう。


 とはいえ、このままやられっぱなしでおしまいなんて、いくらなんでもカッコ悪すぎる。


 俺は、みぞおちの疼くような痛みをこらえ、ファイティングポーズを取った。

 それを見て、アーニャが嬉しそうに微笑む。


「よかった。お腹を叩かれて一発KOじゃ、つまんないもんね。大丈夫? まだやれそう?」

「あたりまえだ! 行くぞっ!」


 言うのと同時に、アーニャに突進する。


 奴は、飛びのいて俺から離れようとしたが、先程、大人状態のときに、俺へ向かって来た鋭い動きと比べたら、スローモーションに感じるほど遅かった。『スピードが半分以下』というのは、どうやら本当らしい。


 俺はアーニャの小さな胴にタックルし、地面に押し倒す。

 よし、上手くいった。

 俺が上、アーニャが下だ。


 ジムで何度もやった訓練では、ここから、子供の喧嘩によく似た馬乗りの姿勢――マウントポジションを取り、倒れている相手に対して拳を打ち落としていく。


 しかし、いくら強いとはいえ、小さな女の子の姿になったアーニャを、優位な姿勢からしこたま殴ることなど、俺にはできそうもない。


 どうする。

 どうする。

 よし。

 関節技を仕掛けて、ギブアップさせてやる。

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