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ただもんじゃない

 駄目だ。

 手ごたえ、なし。

 かわされた。


 アーニャは涼しい顔で、ちょうど一歩分、体を横にずらし、難なく白銀の刃をかわすと、驚くべきことに、伸びた腕が戻るのと同じ速さで俺に接近し、腹部へとパンチを打ちこもうとした。


「くおぉっ!?」


 俺は、驚きと感心の混ざった声を上げてしまう。

 なんという、無駄のない動き。

 こいつ、やっぱりただもんじゃないぞ。


 何をしたって、もう回避は不可能なタイミングだ。

 体を硬化させて、防御するしかない。


 いや、このスピード。

 硬化すら間に合うかどうか。


 馬鹿か俺は。

 迷ってる暇があったら、今すぐ硬化しろ。


 これほど鋭い一撃をまともに食らったら、内臓が破裂してもおかしくない。

 そう思い、腹に力を込めようとすると、アーニャは打ちかけたパンチを止め、俺から距離を取った。


 なんだ?

 硬化能力が間に合うかどうかは賭けだったが、もし、鋼鉄のように硬くなった腹を叩いてしまったら、自らの拳を痛めるかもしれないから、やめたのか?


 そんな俺の疑問に答えるように、アーニャは笑って言う。


「うーん、困ったな。たとえ硬化能力で防御しても、僕のパンチをまともに食らったら、硬化した部分ごと砕け散っちゃうかもしれないし、やっぱり打ち込めないよねえ。……だからといって、まったく反撃しないと、ご主人様も見てて退屈しちゃうだろうしなあ……うーん……」


 ……今の言葉から察するに、アーニャは俺が大怪我するかもしれないから、パンチを引っ込めてくれたらしい。


 その気遣いを、嬉しいと思うような余裕は、今の俺にはなかった。

 ただ、舐められて、馬鹿にされたという屈辱感のみで、胸がいっぱいになる。


 またしても、激情のままに白銀の刃を放ちたくなったが、先程のアーニャの身のこなしは、鮮やかかつ、異次元の素早さだった。考えなしに、単発で打ち込んだとしても、まず当たることはなさそうである。


 何か、連続攻撃やフェイントを織り交ぜて、当てるタイミングを見極めなければ。


 そう思い、攻撃につなげるためのステップを踏み出すと、アーニャは一人で「そうだ!」と言い、何かを思いついたようにポンと手を叩いた。


 それから彼女は、軽やかに、まるで歌でもうたうように呪文を詠唱した。


 なんだ?

 魔法を使う気か?


 爆炎や閃熱が飛んでくるかもしれない。

 俺は、ステップを刻んだまま、どんな攻撃にも対処できるよう、注意深くアーニャを観察する。


 すると、奇妙なことが起こった。

 アーニャの体が、見る見るうちに縮んでいく。


 五秒もしないうちに、彼女の外見は、十歳程度にまで若返ってしまった。

 あまりのことに、ポカンと口を開け、ステップを踏むのも忘れてしまった俺に、ちいちゃくなったアーニャは微笑みかける。


「これで、パワーもスピードも、防御力も半分以下だから、安心して戦えるよ」


 いやいやいや。

 こいつ、本当に何者なんだよ。

 体を大きくしたり小さくしたりする魔法なら、高位の魔術師になれば使うことができると、何かの本で読んだことがある。


 しかし、子供に戻っちまう魔法なんて、聞いたこともないぞ。

 こんな魔法があるって知ったら、年老いた権力者や金持ちが、どんな高額の代金を払ってでも、『自分にかけてくれ』って嘆願してきそうだな。


 ……それにしても、参ったな。

 こんな、ちんまくて可愛らしい姿になったら、攻撃しづらいじゃないか。

 そんな俺の心情を悟ったのか、ちんまいアーニャは、クスクスと笑う。


「見た目が子供だから、叩いたり蹴ったりしづらいんだ。相変わらず優しいね」

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