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きみともっと仲良くなりたいの

 数瞬、見とれていると、呆けた俺の目を覚まさせるように、アーニャは囁いた。


「ねえ、昨日約束したこと、覚えてる?」

「約束? 何か、約束したっけ?」

「ひどい。忘れちゃったの? ……僕の教えてあげた技で、盗賊のボスを倒すことができたら、僕と友達になるって、約束したじゃない」

「ああ、確かにそんなこと言ってたけど、別に約束はしてないような……」


 煮え切らない俺の言葉に、アーニャはめずらしく、ムスッと頬を膨らませる。


「じゃあ約束したかしないかはもういいよ。今ここで、改めて申し込むから。……僕と、友達になってよ。きみともっと仲良くなりたいの。いいでしょ?」


 俺は、少しだけ黙り込む。

 しかし、断る気はなかった。


 色々あったし、得体の知れない女だが、なんだかんだ言って、こいつとは仲良くやれそうな気もするからだ。


 ただ、その前に、一つだけ約束させておかないといけない。


「……分かったよ。友達になろう。ただ、邪鬼眼の術で、イングリッドの心を弄んだことは、一度、本人にちゃんと謝ってくれ。それを、約束してくれるか?」


 アーニャの顔が、これまでで最も明るく輝くと、彼女は俺の手を取り、ぴょんぴょんとジャンプして、喜んだ。


「うんうんっ! するするっ! なんなら、二~三発、顔面を殴ってくれてもいいよ!」

「い、いや、そこまではしなくてもいいけどさ」

「へっへー、やったー、これで僕も……あれっ、ちょっと待ってね」


 突然ジャンプするのをやめると、アーニャはどこか遠くを見るような瞳になり、右手を耳に当てて、一人でぶつぶつと呟きだした。


「はい、アーニャです。はい、はい。えっ、あぁー、そうですか? でも、けっこう……あっ、はい、うーん、それはまあ、そうかもしれないですね。はい、はい。えっ、今からですか? はい、はい、あー、なるほどー」


 時折愛想笑いをしたり、ぺこぺこと頭を下げたりしながら、ひたすら一人で喋り続けるアーニャの姿は、何かに似ていた。


 ああ、そうだ。

 アレに似ているんだ。


 前世の記憶が、映像で、おぼろげに浮かんでくる。

 それは、携帯電話を持ち、電波の向かう先にいる誰かと、何やら話している人間の姿。


 あの様子に、そっくりなんだ。


 ……誰かと、魔法か何かで、テレパシー通信でもしてやがるのか?

 その『誰か』というのは、割と簡単に予想がつく。

 気さくで硬い言葉を使わないアーニャが、頭を下げ、敬語を使う相手――それはおそらく、こいつの『ご主人様』だろう。


 やがて、話が終わったのか、アーニャは「失礼します」と言い、右手を耳から話した。それから、小さくため息を吐き、俺に向き直る。


「はぁ……あのね、ちょっと、言いにくいんだけど……」


 困ったような微笑を浮かべながら、アーニャはもじもじと口ごもった。

 上目遣いでこちらの様子を伺い、なんとも決まりの悪そうな顔である。


 いつも快活なこいつでも、こんな表情をすること、あるんだな。

 俺は、首をかしげて尋ねる。


「なんだよ?」

「うん……そのね……ご主人様がね、僕の目を通して、きみのさっきの戦いを見てたんだけどね。凄く、感動したんだって。特に、ジョン・ブロップにつかまった後、足を軟質化させての急所攻撃で危機を脱したところなんか、思わず感心の声が出ちゃったってさ」

「はあ、そりゃどうも」


 覗き魔に褒められても、大して嬉しくはない。

 しかし、『ご主人様』が俺を褒めていたことが、そんなに『言いにくい』ことなのだろうか?


 そう思っていると、アーニャはさらに言葉を続ける。

 どうやら、ここからが本題らしい。

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