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経験則を超えた攻撃

 どうする。

 どうする。

 どうする。


 こうなったら、格闘士になるためのテストは失格になるが、魔法を使うか?


 いや、この超至近距離で攻撃魔法を使ったら、雷光呪文だろうと、閃熱呪文だろうと、こっちまで巻き込まれてダメージを受けちまう。


 そもそもが、呪文の詠唱には少しだが時間がかかる。

 ジョンが、それを見逃すはずはない。

 今よりさらに強い力で締め上げ、詠唱の妨害をしてくるに決まってる。


 ぬぬぬ……

 何か他に、この窮地を脱する名案はないか。


 両方の腕は、胴体ごとがっちり抱きしめられているので、攻撃にも防御にも使えそうにない。


 頭突きはどうだ?

 駄目だ。

 体格差があり過ぎて、奴の顔面に俺の頭突きは届かないし、たとえ届いたとしても、頭蓋骨に超合金を入れているのだから、まったくダメージを与えることはできないだろう。


 となると、残った反撃の手段は、消去法で『足での攻撃』ということになる。


 まず思い浮かんだのは、膝蹴りで奴の股間を狙う――つまり、男の大切な部分を叩き潰すことだ。


 しかし、ジョンの奴も、俺がそれを狙ってくるであろうことは重々警戒しているようで、上手い角度で俺を抱え、膝で股間を狙えないようにしている。


 クソッ。

 さすがに実戦経験豊富だ。

 褒めたくはないが、この男、俺とは戦いの年季が違う。


 ん?

 経験豊富?

 その言葉で、俺は昨日、アーニャが言っていたことを思いだした。


『経験が豊富であればあるほど、突きにしろ蹴りにしろ、大体どういう間合いで見切ってかわせばいいか、体が覚えているからね。その経験則を超えた攻撃が来ると、案外簡単にいいのをもらっちゃうんだ』


 そうだ。

 確か、そんなことを言っていた。


 ということは、今の状況は、ある意味チャンスなのだ。


 ジョンは、これまでの豊富な戦闘経験で、この状態から俺にできることなどないと確信し、人を舐めたような緩い笑顔で、ジワジワネチネチギリギリと俺を締め上げている。


 今ここで、奴の経験則を超えた攻撃を放つことができれば、完全に不意を突くことができる。


 ……一つだけ、アイディアがあった。

 チンタラ説明している時間はないので簡潔に言うと、拳ではなく、足を使って白銀の刃を放つことだ。


 足を軟質化させて伸ばし、柔らかくしならせれば、今の状態でも、ジョンの股間を狙うことができる。


 そして、足首から先を硬化させれば、パンチよりもはるかに強力な、キックでの白銀の刃になる。


 しかし、足の部分的硬化は一度も試していない。

 できるか?

 この土壇場で。


 いや、ちょっと待てよ。

 別に、硬化させなくてもいいんだ。

 不意を突いて攻撃を当て、とりあえず奴の拘束から逃れられればいいのだから、硬化が必要な白銀の刃ではなく、銀の鞭で充分だ。


 昨日、拳の部分的硬化は結構大変だったが、腕全体を軟質化させることは、比較的簡単にできた。

 足だって、きっとそれほど苦労せずに、同じことができるはずだ。


 んぐぇっ!

 クソッ、ジョンの野郎、また一段階、締め付けを強くしやがった。

 これ以上悩んでたら、背骨にひびが入っちまう。


 考える時間は終わりだ。

 後はもう、なるようになれだ。


 深呼吸。

 足の力を抜け。

 俺はシルバーメタルゼリー。

 不定形の魔物だ。


 ……よし。

 ……よし!

 いいぞ。

 足が柔らかくなっていく、実感がある。


 ジョンの顔を見る。

 先程と同じ、薄ら笑いを浮かべて俺の体を締め上げるその顔には、警戒心のかけらもない。


 馬鹿め。

 そのまま、キン〇マを潰されて、ぶっ倒れるまで笑ってろ。

 俺は右足を引いて、鞭の動きをイメージし、思いっきりしならせて、奴の股間を狙った。

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