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必殺のタイミング

 しかし、奴が一瞬とはいえ、視線を酒瓶の方に移したおかげで、テーブルの近くに移動する時間ができた。


 俺はテーブルから、ビールらしき液体の入ったジョッキを取り、ジョンに投げつける。


 さあ、どうする?

 かわすかい?

 それとも受けるかい?


 どちらでもいい。

 奴が何かアクションを起こしたら、その隙を狙って、白銀の刃をぶち込んでやる。


 しかし、ジョンの選択はそのどちらでもなかった。

 直立不動。

 ジョッキはジョンの頭にゴンと当たり、彼の上半身はビールまみれになった。


 額から垂れ落ちるビールを、舌を伸ばして舐めとり、瞳をつぶったまま、ジョンは半笑いで言う。


「もったいねえ。けっこう良いビールなんだぜ、これ」

「そりゃ失礼した」


 チャンスだ。

 かわすでも受けるでもない――直立不動という選択肢を取ったことで、隙を作らなかったつもりなのかもしれないが、そいつは大間違いだ。


 目にビールが入っちゃ、まともに攻撃を避けることなんてできやしないだろう。


 脱力。

 腕を軟質化。

 それっ、くらえっ!


 凶器と化した拳が、ジョンの眉間めがけ、唸りを上げて飛んでいく。

 必殺のタイミングだ。


 ガギィンッ!

 硬い炸裂音と共に、強烈な手ごたえを拳に感じる。


 勝った――

 白銀の刃がまともに眉間を直撃して、立っていられる人間などいるはずがない。

 超高速の鉄の塊で、ぶっ叩かれたようなもんだからな。


 だが、そこで奇妙な違和感を覚えた。

 さっきの、炸裂音。

『ガギィンッ!』だって?

 鉄の塊で、人間の頭を叩いて、そんな音がするだろうか?


 そう思ったときには、もう遅かった。

 猛牛そっくりの勢いで突進してきたジョンに、俺は抱きしめられていた。


 いや、抱きしめるなんて、可愛らしい状態じゃない。

 プロレスでいうところの、ベア・ハッグである。

 凄まじい腕力で体を締め上げられ、俺は顔面を青く染めながら、短く呻いた。


「ぐぁ……っ!? な、なんでっ……頭に直撃したのにっ」


 ジョンは、割れた眉間からダラダラと血を流しながら、笑う。

 額から鼻、鼻から唇にかけて出血で真っ赤であり、まるで赤鬼だ。


「いや、おでれえたよ。本当さ。一瞬だが、完全に意識が飛んだ。すげえ技だ。まさか、腕が伸びてくるなんてな。こいつで、ベロー兄弟をやったんだな。いや、すげえよ、お嬢ちゃん。たいした必殺技だ。俺が改造人間じゃなきゃ、今ので勝負がついてたよ」

「改造人間だって? うがっ……!」


 話しながらも、ギリギリと締め上げられ、背骨がきしみ、俺は悲鳴を上げる。

 ジョンは、先程ビールを舐めとったように、垂れ落ちる赤い血液を、ぺろりと舐め上げた。


「さっき話しただろ? 世の中には、強くなるために自分の体をいじくりまわしてるような、いかれた奴がいるってさ。……俺も、そのいかれた連中の一人さ。もう十年以上前に手術してね、頭蓋骨と心臓周辺、そして肋骨の周りに、魔法で強化錬成された超合金を埋め込んであるのさ。鎧みたいにね」


「そ、そんなのありかよ……っ!? ずりーぞっ!」


「おいおい、お嬢ちゃんがそれを言うのかい? 腕が伸びるなんて、俺から見てもずるくていかれた改造だと思うがね。……さて、どうするかね。このまま本気で締め上げりゃ、一分もしないうちに、お嬢ちゃんの背骨を折ることはできる。殺しはやらない主義だが、頭を割られた以上、さすがにタダで帰してやるわけにもいかんよなあ」


 クソッ。

 なんてザマだ。

 白銀の刃が決まって、勝負がついたと油断した。

 奴がぶっ倒れるまで気を抜かなけりゃ、こうも簡単に捕まることはなかったのに。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういう主人公最強じゃないのとっても好きですありがとうございます ジョン強いですねどう攻略するのか楽しみです 2、3章分かかるんでしょうけどベレスを見返す回とかになるのかな? どうなるのか楽…
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