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唐揚げうまし

 俺の体に入ったジガルガは、だらだらとよだれを垂らしながらも、こちらに向かって言う。


「ぬしは食べなくていいのか? 今日も特訓をしてきたのなら、腹が減っているだろう?」

「そりゃそうだけど、お前が食べれば、俺の腹も膨れるから別にいいよ。お前、唐揚げで飯を食うの、楽しみにしてたんだろ? 俺はいつでも食えるからさ、今日くらい、全部お前が食えばいいよ」

「ぬぅ……格別な配慮……かたじけない……」


 武士かお前は。

 ジガルガは頭を深く下げ、それから猛然とした勢いで白飯と唐揚げを貪りだした。


「うまし。うまし。唐揚げ、うましっ!」


 時折そう叫びながら、真剣な瞳で飯を食う姿を見ていると笑ってしまいそうだったので、俺は視線を窓に向けた。


 今日は月が綺麗だ。

 レニエルとイングリッドも、どこかでこの月を見ているのだろうか。


 そこで、窓の近くの戸棚に、見慣れない封筒が、無造作に置いてあるのが分かった。


 クリーム色と、薄紫色の、二種類である。


 なんだあれ?

 まったく置いた記憶がないぞ。


 俺が、誰かに宛てて書いた手紙か?

 それなら、明日郵便に出さなきゃな。


 そう思っていると、ジガルガがその気持ちを読んだのか、一度食事を中断し、封筒を持ってきてくれた。


 俺は、愕然とした。

 封筒が二つとも、俺の書いたものではなく、俺に宛てて送られてきたものだったからだ。


 レニエルと、イングリッドからだ。

 恐らく、近況報告の手紙だろう。


 不意に、昨日の記憶が、モヤモヤとよみがえってくる。


 あ……

 あぁー……

 そういえば、郵便屋さんが来て、何か、受け取ったような気がする……


 ああ、うん、そうだ……「いつもご苦労様でーす」とか言って、封筒を二つ、受け取ったわ……

 そして昨日の俺は、二つの封筒を戸棚の上に置き、そのまま眠ってしまったのだ……


 受け取った手紙はその日のうちに読めよ! 昨日の俺!

 分かりにくい戸棚の上じゃなくて、見つけやすいテーブルの上に置いておけよ! 昨日の俺!


 まあ、連日の猛特訓で、まともに頭が回る状態じゃなかったんだから、しょうがないか。


 これ以上、責めるのはよそう。

 許してやるぞ、昨日の俺。


「ふぅー、充分に腹は満たされた……今日も、美食だった……」


 食事を終えたジガルガが、腹を擦りながら、深く息を吐く。

 俺は、思わず突っ込んだ。


「おいおい、早すぎだろ。食事はゆっくりとった方が健康にいいんだぞ」


「それは分かっているが、美食の誘惑に打ち勝つことができなかった。許せ」


「まあ、ただの唐揚げと白飯をそれだけ喜んでくれりゃ、こっちとしても作ったかいがあるけどさ」


「うむ。ぬしの作る飯は美味い。今後は唐揚げ以外も色々と食してみたいものだ」


「はいはい、何かメニューを考えておくよ」


「楽しみにしているぞ。さて、それでは体を返そう」


 ジガルガがそう言うのとほぼ同時に、俺は元の体に戻っていた。

 おおぅ……

 胃がずっしりと重い。

 大量の飯と唐揚げが詰まってるんだから、当たり前か。


 おっとっと、それよりも、今はレニエルとイングリッドからの手紙だ。

 俺はまず、上にあったレニエルの手紙を開封した。


『親愛なるナナリーさん、お元気ですか? イングリッドさんも、お変わりありませんか? 父の魂を慰霊する旅は順調に進み、予定通りの日程でリモールに戻ることができそうです。道中、時折モンスターや野盗に襲われることもあるのですが、フロリアンさんが護衛をしてくれているおかげで、一度も危ない目には遭っていません。イングリッドさんもそうでしたが、七聖剣というのは、本当に凄いですね。僕も、あの人たちのように強くなりたいものです。……慰霊の旅の最中は、あまり長い手紙を出してはいけないしきたりだそうなので、短い近況報告のみで、ペンを置かせてもらいます。再びあなたに会える日を願って――レニエル・クラン』


 うむ。

 トラブルなく旅が進んでいるようで何よりだ。

 聖騎士団長のフロリアンが守ってくれるのだから、俺といるよりむしろ安全なくらいだろう。

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