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友達

「……ところで、『思考を読むタイプの魔法使い』ってので、ちょっと思ったんだけどさ。お前、スーリアで、俺の心に直接語り掛けてきたじゃん。俺も、テレパシーみたいなので、お前と会話できたし」

「それがどうかしたの?」


 なんで今、そんな話を?

 とでも言いたげに首をかしげるアーニャは、まるで猫のようで、ちょっと可愛い。


「いや、その、まさかとは思うけど、お前、人の心の中を、自由自在に読み取ったりできるのかなって思って」

「その通り、できるよ」


 げっ、マジか。

 ってことは、こいつにはどんな嘘もごまかしも通用しないってことかよ。


 あせって、一人あたふたする俺を見て、アーニャはおかしそうに笑い出した。


「なーんてね、冗談だよ、じょ・う・だ・ん。あははっ! ビックリした?」


「こ、この野郎……」


「あの時は、きみが必死で助けを求めていたから、心の中に入り込むことができたんだ。平常時なら、流石の僕も、心の中を丸々覗き見るなんて不可能だよ。安心した? それとも、僕に心の全部を見てほしかったのかな?」


「んなわけねーだろ!」


「んもー、すぐ怒るー」


 まったく、こうやってからかってこなきゃ、もうちょっとばかし、こいつのことを好きになれそうなんだが。


 ……しかしながら、先程も言ったが、今日はすっかりこの猫耳女の世話になってしまった。


 少し気恥ずかしかったが、改めて礼を言っておこうと思い、一度深く瞬きすると、もう目の前にアーニャはいなかった。

 慌てて彼女の姿を探す俺の耳に、声だけが響いてくる。


「ねえ。自分で言うのもなんだけど、今日、僕ってかなり役に立ったよね?」

「あ、ああ。まあ、そりゃな」

「だからさ、もし僕の教えてあげた技で、盗賊のボスを倒すことができたらさ……」


 そこで、言葉は切れた。

 もうどこかに行ってしまったのかと思っていると、別れのあいさつのように、ハッキリとしたアーニャの声が聞こえた。


「僕と、友達になってよ」



 そんなこんなで宿に戻り、飯でも食って寝ようと思っていると、ひさしぶりにジガルガの気配を感じる。


 いつも突然声をかけられて、ビックリさせられているので、今日は俺から挨拶することにした。


「ようジガルガ、起きたのか、二週間ぶりだな」

「むっ、ぬしから先に声をかけられるとはめずらしいな。少し驚いたぞ」

「へへ。だんだん、お前が起きてるときと、起きてないときの違いが分かるようになってきたんだ」

「そうか。まあ、ぬしに取りついてから、そこそこ時間が経ったからな。徐々にこの奇妙な同居状態にも慣れてきたということだろう。……だが『二週間ぶり』とは、随分とほうけたことを言うものだ。四日前にも一度起きたし、さらにその五日前にも起きて、話をしただろう」


 ジガルガは肩をすくめ、アメリカ人が大げさに呆れた気持ちを表すようなジェスチャーをすると、よじよじと俺の腕を登り、肩に乗って来た。


「マジで? 全然記憶にないんだけど」


 というか、この二週間は、ひたすら格闘技の訓練のことしか覚えておらず、宿に帰ってからの記憶はすべて曖昧だ。恐らく、超強力回復魔法で体を無理やり回復させ続けた影響で、頭がうまく回っていなかったのだろう。


「そういえば、一応受け答えはしていたが、ここ最近のぬしの目は、どこか虚ろだったな」


「うーむ、俺はこの二週間、虚ろな目で武術の訓練を黙々とやり続ける存在になってたってことか、我ながら不気味だ」


「まあ、武術の基礎を習得するには、余計なことは考えずに、優秀な師の教えを徹底して反復し、動きを体に覚えこませるのが一番だ。そういう意味では、素人しろうとのぬしが無駄な試行錯誤をするよりも、良い訓練を積むことができたかもしれんな」


「ちぇっ、その通りかもしれないけど、『無駄な試行錯誤』とは、なかなか言うことがキツイね。これならアーニャの方がよっぽど優しかったぜ」

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