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必殺技の名前

 俺は先程モニュメントに乗っけた、人の頭サイズの岩石に狙いを定め、腕を軟質化させる。


 そして、鞭の動き。

 ビシュンッという、独特の鋭い風切り音がして、拳が岩石へと飛んでいく。


 よし、このタイミングだ。

 何度も練習した拳の硬化を、岩石に当たる直前で発動させる。


 拳が一瞬、白銀に輝いた。

 もの凄い手ごたえが、拳から腕、腕から肩、果ては肩から脳天に至るまで、ビリビリと走り抜ける。


 岩石は、もうそこになかった。

 粉々に砕け散り、ただの石の破片に変わり果てているからだ。

 アーニャが、嬉しそうに弾んだ声を上げる。


「やったね、大成功。あとは、この技を使うタイミングさえ間違わなければ、きっと大丈夫だよ」


「タイミングって?」


「いくら強力な必殺技だからって、フェイントもなしに、元気な相手にいきなり使っても、かわされやすいってこと」


「ああ、まあ、そりゃそうか」


「技を使う前に、他の攻撃と織り交ぜて当てやすくしたり、敵が疲弊してきたところを狙ったりするのが重要だよ。忘れないでね」


「分かった。それにしても、今日は随分と世話になったな。ありがとう、アーニャ」


「『今日は』じゃなくて『今日も』じゃない? 前に会った時も、随分お世話してあげたじゃない」


 そう言って悪戯っぽく笑うアーニャに、俺はジト目を向ける。

 どうやらこいつ、割と調子に乗るタイプらしい。


「うるさいな。一度、邪鬼眼の術で迷惑をかけられてるから、前回のお世話はその慰謝料みたいなもんで、ノーカウントなんだよ」


「じゃあ、そういうことにしておこうか。ねえ、それよりせっかくだから、今完成した技に名前をつけようよ」


「そりゃいい。実を言うと、練習してる最中から考えてた名前があるんだ」


「へえ、どんな名前?」


「パンチがぐぐーって伸びるだろ? だからストレッチ・パンチ」


 アーニャが黙り込んだ。

 そして、残念なものでも見るように、俺に哀れんだ視線を向ける。


「なんだよ? かっこいいだろ? パンチがストレッチするんだぞ?」


「正直に言うけど、かっこわるいよ。ストレッチパンツみたいじゃない。それに……」


「それに?」


「見たり聞いたりしただけで、技の特性が分かるような名前は良くないと思う。今回の相手の盗賊たちなら心配はないだろうけど、世の中には、思考を読むタイプの魔法使いとかもいるからね。そんな相手と戦う時、『これからストレッチ・パンチを使うぞ』って思ったのを読まれたら、名前のせいで、伸びるパンチを打つつもりなのがバレちゃうかもしれないでしょ?」


「あぁー、なるほど。お前、よく考えてるな。じゃあちょっと捻った名前にするか。ズーム・ナックルはどう?」


「たいして変わってないじゃない……」


「なんだよもう、ケチばっかりつけて。それなら、お前が考えてくれよ」


「ふふ、本音を言うと、そう言ってくれるのを待ってたんだよね。だいたい、僕が考えた技なんだから、僕に命名する権利があると思うし。……そうだね、硬化した瞬間に輝く白銀の光と、刃物並みの鋭さの一撃という意味を込めて、『白銀しろがねの刃』っていうのはどうかな?」


 今度は、俺が黙り込む番だった。

 アーニャは『なかなかいいでしょ?』といった感じで、キラキラとした瞳でこちらを見てくるが、俺は正直に感想を言う。


「なんか……その……中二病みたいでやだ……」

「どこが!? かっこいいでしょ!? 少なくともストレッチ・パンチよりはかっこいいよ!」

「うん……じゃあまあ……それでいいよ……」


 珍しく興奮して声を荒げたアーニャに圧倒され、俺はしぶしぶ『白銀の刃』を受け入れた。

 アーニャの言う通り、この名前なら、ちょっと見たり聞いたりしただけでは、フレイルみたいなパンチが飛んでくるとは想像できないしな。

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