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白銀の輝き

 背後から、アーニャの声が響いてくる。


「オッケー。体を硬くするのは、上手くいったみたいだね。硬化能力を発動した影響なんだろうけど、一瞬だけ、体が白銀しろがねのように光って見えたよ。ただ……」

「ただ?」

「全身を硬化させてしまったことで、関節も硬くなって、腕の伸びが止まっちゃったみたいなんだよね。やっぱり、拳だけを硬化させないと駄目みたい」

「あー、なるほど、そういうことか。拳だけってことは、今まさに、拳に攻撃を食らいそうって想像しないと駄目だな。けっこう難しそうだ」


 俺はとりあえず、腕を伸ばすのをやめ、普通の形で何度もパンチを打ちながら、拳を硬化させる練習をする。


 最初に言った通り、けっこう難しかったが、四十発、五十発と打ち込むうちに、十回に一度くらいの確率で、拳だけが硬化するようになった。


 この調子なら、今すぐというわけにはいかないが、夜まで必死に特訓すれば、例の伸びるパンチに組み合わせることができるようになるかもしれない。


 俺は一心不乱に、技の習得に努める。

 その背中に、再びアーニャの声が響いた。


「うん、いい感じだね。何度も反復練習すれば、きっと使いこなせるようになるよ」

「ああ、ありがとな。お前のおかげで、凄い必殺技ができそうだ」


 そこで一旦会話は切れ、周囲には俺のパンチが生む風切り音だけが鳴るようになった。

 しばらくして、アーニャがぽつりと言う。


「……自分の体を大切にしろなんて言われたの、生まれて初めてだよ。正直、かなり嬉しい」

「えっ? ああ、さっきのことか」


 硬化パンチの特訓は休まずに、俺は考える。

 親からも、誰からも、一度も『自分の体を大切にしろ』って言われない人生って、どんな人生なのだろう。


 これまでの行動から察するに、アーニャは正体不明の『ご主人様』に絶対服従のようだが、『ご主人様』とやらは、アーニャのことを大切にしてやってるのだろうか。


 ……この猫耳娘、明るく見えて、けっこう苦労してたりするのかなあ。


 俺は、なんと言葉を返していいか分からず、黙々と練習を続ける。

 アーニャは、まるでひとごとのように喋り続けた。


「ご主人様がきみに執着する気持ち、ちょっとわかってきたよ。僕も段々、きみのこと、好きになってきちゃった」

「何それ、お前のご主人様って、俺のこと好きなわけ?」

「そりゃもう、夢中だよ。僕を使って、四六時中しろくじちゅう観察してるくらいだから」


 四六時中ねぇ……


「一応聞くけど、トイレと風呂は見てないだろうな?」

「ノーコメントにしとく」

「そこは嘘でも見てないって言ってくれよ!」


 こいつの『ご主人様』が何者かは気になるが、今は技の習得が第一だ。

 俺は雑念を振り払ってパンチを打ち続ける。


 そして夕日が沈み、すっかり夜の闇に包まれたアルモットの町に、明るい街灯が光りだしたころ、ほぼほぼ狙った通りに、拳の硬化を起こすことができるようになった。


「うん。ほとんど自分の意思で、硬化をコントロールできるようになったみたいだね。凄いじゃない、こんな短時間でさ」


 アーニャが、夕刻に出会ったときのように、パチパチと拍手をする。

 俺は頷き、自分の拳を見つめながら、言葉を返した。


「でも、練習している最中に気がついたんだけど、一度硬化能力を使うと、しばらくは硬化できなくなるみたいだ」


「ふぅん。つまり、連続では使用できないってことだね」


「そうなるな」


「まあ世の中、何もかも思い通りにはいかないよ。たぶん、体を硬化させるのにも、何らかのエネルギーを使っているんだろうし、硬化能力を使いすぎると、思ってもいなかったデメリットが発生する可能性もあるから、強敵以外には多用しない方がいいかもね」


「そうするよ。さて、今日の特訓の仕上げだ。もう一度だけ、あの岩石を狙ってみるか」

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