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頑丈さの理由

 俺の驚き方に満足したようで、アーニャはニコニコと微笑みながら解説する。


「シルバーメタルゼリーの頑強で柔らかい体――その腕は、言うなれば鋼鉄の鞭。それを思いっきりしならせて打ち込めば、普通のパンチとは比較にならない鋭さと攻撃力を生み出すことができる。やるじゃない。一度教えただけでできるようになるなんて、センスあるよ」

「いやあ……そんな……」


 ストレートに褒められ、少々気恥ずかしくなった俺は、照れ隠しに自分の頬をかこうとする。そこで初めて、パンチを放った右拳に、赤いものがついていることに気がついた。


 血だ。

 俺の血じゃない。


 アーニャの手を見る。

 手のひらが、軽く裂けて出血していた。

 慌てて駆け寄り、謝罪する。


「ご、ごめん。今ので血が……どうしよう、俺、回復魔法使えないからなぁ」


 アーニャは、言われて初めて怪我したことに気がついたようで、自分の手を一度見ると、カラカラと笑う。


「こんなの、ただのかすり傷だって。すぐ治るから心配しなくていいよ」

「いや、でも……」


 けっこう血が出てるぞ。

 そう言おうとして、絶句した。

 もう血が止まっている。


 いや、それどころじゃない。

 見る見るうちに、裂傷がふさがっていく。

 俺は、ゴクリと唾を飲み、アーニャの瞳を見た。


「やだな。そんな化け物を見るような目で見ないでよ」

「ごめん、そんなつもりじゃ……」

「ふふ、わかってるって。それより、心配してくれて嬉しかったよ。さて、特訓に戻ろうか。ここからが、一番大事なんだからね」


 俺は素直に頷いて、先程と同じく、3メートル離れた位置に戻った。


 アーニャについて聞きたいことは山ほどあったが、技を教えてもらい、怪我をさせた挙句、『化け物を見るような目で見ないでよ』と言われては、それ以上問い詰めることはできなかった。


 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、アーニャはさっきまでとまるで変わらない、快活な様子で声を出す。


「鞭の打ち方をすることで、鋭さとスピードは段違いにアップ。攻撃力も、かなり増した。これをまともに急所に当てれば、大ダメージを与えることができるはずだけど、タフな相手の場合は、一撃で倒すというところまではいかないと思う。だから、最後の仕上げとして、さらにもう数ランク威力を上げる方法を教えてあげる」


 なんと。

 さっきの一発でも充分強力だったと思うが、まだ威力が増すのか。


「やり方は簡単。腕を柔軟にして、鞭のように相手の急所を狙うのはさっきまでと同じ。違うのは、攻撃を当てる瞬間、自分が攻撃されたと思って体をこわばらせるだけ。ね? 簡単でしょ?」


「確かに簡単だけど、そんなんで威力が大幅アップするのか?」


「普通の人間なら意味ないよ。でもきみは、シルバーメタルゼリーの化身だからね。ものすご~く意味があるんだよ」


「どゆこと?」


「きみ、シルバーメタルゼリーが、どうしてあんなに頑丈なのか知ってる?」


「さあ? 生まれつきだし、深く考えたことないよ」


 ジガルガが昔、高いオーラが防御力に関係しているとか言っていた気がするが、俺自身は特別な実感がない。

 アーニャは、人差し指、中指、薬指の三つを立て、朗らかに説明を続ける。


「理由は三つ。まず第一に、体を構成する細胞自体が頑丈。第二に、小型の魔物としてはかなりオーラが高い。第三に――これが一番大きいんだけど、シルバーメタルゼリーは、攻撃を食らう瞬間、無意識に全身を硬化させて、防御行動をとっているんだよ」

「そうなの? 自分では特に意識したことないけど」

「ふふ、だから『無意識に』って言ったでしょ。普段は素早い身のこなしで攻撃をかわし、どうしても避けられないと判断したら、頭で考える間もなく、体が自然とこわばり、全身を硬化させてダメージを最小限に抑える。その硬化能力は、一種の『異能』といってもいいだろうね」

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