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アーニャふたたび

 いったい、いつの間にそこにいたのだろう。


 邪鬼眼の術者――アーニャは、広場脇の古ぼけたベンチに腰掛け、すらりとした足を組み、俺の方を見ながら、いまだに拍手を続けていた。やがて手を叩くのをやめると、上機嫌に喋りだす。


「凄いね。二週間前とはまるで別人だよ。あのジム、ちょっと過酷すぎるトレーニング内容だったけど、一生懸命頑張ったかいはあったみたいだね」

「その口ぶりだと、相変わらず俺のことを、陰から見てやがったんだな。スケベ野郎め」

「そういう言い方はやめてよ。傷つくなあ。それに、前も言ったけど、僕、野郎じゃなくて女の子だよ」

「じゃあ訂正する、俺のこと、いちいち観察するんじゃねえ、スケベ女」


 我ながら、少し驚くほど語気が荒い。

 俺は、何をむしゃくしゃしているんだろう。


 このアーニャに対しては、イングリッドとの決闘で一度ひどい目に遭わされているが、ピジャンとの戦いの際は、正直言って本当に助かった。顔色一つ変えずピジャンを殺した冷徹さには少々思うところもあるが、彼女によって、決断を下すことができなかった俺が救われたのは事実だ。


 ……実を言うと、再会したら、礼の一つくらいは言ってもいいと思っていたのに、口から出るのはキツイ言葉ばかりである。


 何故か。

 自分のことだ、だいたいは、分かっている。

 俺は、気が立っているのだ。


 もっと正確に表現するなら、緊張し、軽くだが、恐怖していると言ってもいい。


 明日、単身で、それなりに名の知れた盗賊集団を退治しに行かなければならないからだ。

 それも素手で。


 その緊張感が、俺の神経を高ぶらせ、必要以上に攻撃的にさせている。


 しかしアーニャは、大して気分を害した様子もなく、肩まで伸びたオレンジ色のショートヘアーをかき上げ、微笑した。


「明日のテストが怖いんだね。そんなに緊張しないで。今のきみなら、普通にやれば72%程度の確率で、上手くいくと思うよ」


 ふん。

 全部お見通しというわけか。

 そりゃまあ、ずっと俺のことを観察してるわけだしな。


 ……72%か。

 ジガルガなら『悪くはないが、確実に成功させたいなら、少々不安の残る確率だな』とでも言いそうだ。

 そんな俺の内心を読んだのか、アーニャは朗らかに言葉を続ける。


「どうして90%台や、80%台にならないか分かる?」


「知るかよ。どうせ、俺が未熟だからって言いたいんだろ」


「もう、そんなにツンツンしないで、楽しくおしゃべりしようよ。それに、今のきみ、未熟って言うほどじゃないよ」


「そうなの?」


「完熟とまではいかないけどね。生まれつきの俊敏な身のこなしのおかげで、少なくとも、一般的な格闘士よりは随分強いと思う」


「へえ。んじゃ、どうして成功確率がイマイチなんだ?」


 そこで、アーニャはクスっと笑う。


「ふふ、やっと落ち着いた感じに戻ってくれたね。嬉しい」

「……そうだな。さっきから、トゲトゲしい言い方をして悪かったよ。ごめん。お前には、スーリアで凄く世話になったってのに」


 アーニャは、さらにクスクスと、おかしそうに破顔する。


「なんだよ? そこまで笑うようなことか?」


「きみさあ、すぐに人のこと、好きになっちゃうんだね。可愛い」


「はあ?」


「だってさ、僕、邪鬼眼の術を使って人の心をもてあそんだり、理由も言わずにきみをコソコソ見張ってるような奴なんだよ? 本当なら、そんなふうに謝ったりする必要ないじゃない。……何より、分かるんだよね。きみ、もう僕のこと、敵だと思ってないでしょ? それどころか、まったく正体が分からないのに、数回話しただけで、少しずつ、僕のことを好きになってきてる」

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