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一人の夕餉

 レニエルとフロリアンが出発してから、早くも三時間ちょっとが過ぎた。


 時刻は、午後七時すぎ。


 そろそろ、どこかの村か町に逗留し、食事でも取っているのかな。

 そんなことを思いながら、俺自身も、夕餉ゆうげの支度をする。


 ジムのトレーナーから、疲れた筋肉を補修するために、しっかりタンパク質を摂取しておくようにと言われたので、今日は豆と肉を一緒に煮込んだシチューを作ることにした。


 エプロンをして、鼻唄を歌いながら、上機嫌に料理をする俺だが、ひとつ気がかりがあった。

 イングリッドが帰ってこないのだ。

 まあ、あいつのことだし、腹が減ったら帰って来るとは思うが……



 それから、さらに四時間が経過した。


 午後十一時。


 俺はもう、とっくの昔に食事を終え、歯もみがき、そろそろ寝ようかなという時間なのだが、またイングリッドが戻ってこない。


 あのバカ。

 どこをほっつき歩いてるんだ。

 心配かけやがって。


 まあ、あいつが夜の街をふらついていても、危害を加えられる奴なんていやしないだろうが、それでも心配は心配である。


 ちくしょう、明日も早くからジムでトレーニングしなきゃいけないんだから、とっとと寝たいのに、眠れねーじゃねーか。


 レニエルもいないので、このちっぽけな部屋に、ぽつんと俺一人。

 なんだか、無性に心細い。


 思えば、ここ最近は、なんだかんだ言って、俺とレニエル、そしてイングリッド。

 三人一緒で、わいわいと楽しくやってたからな。


 急に一人になると、やけに寂しく感じる。

 ジガルガでも、起きてくんねーかな。

 って、そんな都合よく起きたり寝たりしないよな。


『呼んだか』


 うおぉっ!?

 突然頭に響く、ジガルガの声。

 本当に起きたのかよ!?

 前に話した時から、まだあんまり時間が経ってないのに。


『うむ。前回は、少しだけしか起きていなかったから、早く目を覚ますことができた』


 ベッドの脇にある棚に、ちょこんと腰かけるジガルガ。

 こりゃいい。

 どうせイングリッドが帰ってくるまでは眠れそうにないし、話し相手になってもらおう。


 聞きたいことも、たくさんあるんだ。

 俺は、スーリアにて、ジガルガが眠ってしまった後に起こった、様々な事柄について説明した。


 ジガルガは、目を閉じ、深く息を吐く。

 それから、テレパシーではなく、小さな口から、直接言葉を発した。


「ふむ……邪鬼眼の術者に危機を救われるとはな。面妖なこともあるものだ」


「まったくだぜ。それも、邪鬼眼の術者――アーニャの奴、やけにフレンドリーでさ。なんか調子狂っちゃったよ」


「話を聞く限り、そのアーニャとやらの主人は、相当ぬしに入れ込んでいるようだな。心当たりはないのか?」


「人間になってからこれまでで、俺に強烈な好意をアピールしてきた男なんて、酒場でバイトしたときにケツ触ってきた酔っ払いのおやじくらいだよ」


「まあ、これまで表立ってコンタクトしてくることのなかったアーニャとやらが、緊急事態だったとはいえ、直に接触を図ってきたのだ。奴の主人と邂逅するのも、そう遠い話ではないかもしれん」


 俺は頷いた。


「そだな。それに、連中は基本的に、俺の命を奪おうってつもりはないみたいだし、前よりはちょっと気が楽だよ。それより今気になるのは、あのピジャンが言っていた『調和を保つ者』と『調和を乱す者』の関係――つまり、世界のことわりについてだ。お前、何か知らない?」

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