七聖剣序列
「……きみのことを、一族の恥だと言っていた」
「えっ」
「……もう長らく武者修行の旅をしているので、あの知性の欠片もない顔を見なくて済むから、最近すこぶる気分がいいとも、言っていた。それが、この数ヶ月で、きみのことについて、ベルサミラと話した全てだ。……すまない。こういうときは、嘘をつくことができない、魔装ラーグリアの戒めが恨めしいよ」
心から申し訳なさそうに頭を垂れるフロリアン。
イングリッドは、小さく「もうちょっと走ってくる」と言い、部屋を出て行った。
さすがのあいつも、アルモットを一周したなら、もうクタクタだろうに……
俺は、少々憤慨して、フロリアンに食って掛かる。
「おい、なんだよ。そのベルサミラってのは。感じ悪いな」
「ベルサミラはイングリッドの妹であり、彼女と同じく、七聖剣の一人です」
「ふぅん。妹のくせに、姉に向かって随分と偉そうなこった」
「それは、まあ……実際に、ベルサミラの方が、イングリッドより格が上ですから」
「どゆこと?」
「七聖剣も、実力に応じて序列があるんです。イングリッドは、七聖剣の中でも、序列七位。つまり、一番格が低いのです」
マジか。
あんなに強いのが、七聖剣の中では最低ランクとは。
「フロリアンさんは、何位なの?」
「私は三位です」
「えっ、団長なのに、一位じゃないの?」
フロリアンは、苦笑した。
「七聖剣序列は、あくまで個人の戦闘能力のみを格付けしたものですから。大きな組織である聖騎士団をまとめる団長は、単純な強さだけではなく、指揮能力、政治能力、人望など、多岐にわたる能力を考慮されて、国王陛下により選抜されるんです」
「へぇ、確かにあんた、人柄も良さそうだもんな」
「ありがとうございます。ただ、過去の例を見ると、聖騎士団長は、騎士団の中で最強の使い手であることが多かったですから、私の上に二人もつわものがいる現況は、少々恥ずかしい状態であるのは確かです。もっと、精進を積まなければなりませんね」
「なるほどねぇ。んで、さっきのベルサミラっていうのは、何位?」
「一位です」
「あれま」
「七聖剣序列一位『全能』のベルサミラ……生まれついての剣の天才。年齢は、イングリッドより五つも年下の15歳ですが、すでに剣の道を極めているといっても過言ではないでしょう」
「ほぉー。以前、イングリッドが、絶対負けたくない相手がいるって言ってたけど、そのベルサミラのことなのかな」
「きっと、そうでしょうね。ですが、正直言ってベルサミラは、人の理を超えた怪物です。イングリッドも、常人より遥かに優れた剣才の持ち主だとは思いますが、恐らく、生涯努力したとしても、ベルサミラに勝つことはできないでしょう」
「ふぅーむ。あいつも、色々大変なんだなあ。帰ってきたら、今日はちょっぴり優しくしてやるか」
「そうしてあげてください。……それにしても、少し安心しました。あなたは、イングリッドのことを気遣ってくれているのですね」
そう言って、フロリアンは一度水を飲もうとし、コップに手を伸ばしたが、先程イングリッドがすべて飲み干してしまったことを思い出し、照れくさそうに笑った。
俺は台所から水差しを持ってきて、空になった彼のコップにおかわりを注ぎながら、話を続ける。
「まあ、一応仲間だし。あいつのこと、別に嫌いじゃないからね」
「仲間……ですか。イングリッドが聞いたら、さぞ喜ぶでしょう。彼女は、ほら、ああいう性格ですから、聖騎士団の中でもちょっと浮いていて、いつも一人ぼっちだったのです。彼女なりに、皆とうまくやろうとはしているのですが、どうにも空回りばかりで……」




