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決定的な誤解

 フロリアンが、深い溜息を吐く。


「イングリッドが世界を回って武者修行の旅をしているのは知っていましたが、あなたにも随分と迷惑をかけてしまったようですね。申し訳ない」


「別にあんたのせいじゃないよ。それに、第一印象は最悪だったけど、今は結構楽しくやってるからさ。そんな、謝んなくていいよ」


「そう言ってもらえると助かります。……それにしても、第一印象といえば、あなたもかなり、最初の印象と違いますね」


「こっちが。こういう言葉遣いの女は嫌いかな?」


 フロリアンは、静かに首を横に振ると、じっと俺の目を見て、言った。


「いえ、とても活動的で、素敵ですよ。それに、どんな話し方でも、あなたの美しさが損なわれるわけではありませんから」


 やだ……そんなふうに言われると、困る……

 なんてな。

 こいつは、天然の女殺しだな。


 凛々しくて美しい、精悍な顔。気品ある物腰、高い身長、そして、騎士団長という身分。


 甘い言葉をかけられたら、大抵の女は、まあコロっといっちまうだろう。

 まあ、俺をそこらの女と一緒にされちゃ困るがね。


「俺の美しさはとりあえず置いておくとして。フロリアンさん、あんたに一つ聞きたいことがある」

「なんでしょう?」

「どうしてレニエルがここにいるってわかったんだ?」

「それです。その剣の反応を追って、転移魔法でやって来たんですよ」


 フロリアンが『それです』と指さす先には、レニエルの剣――魔装ルミオラがあった。

 ここ数日、戦闘するような依頼には出かけていないので、タンスの陰に置きっぱなしである。


 レニエルが、フロリアンに問う。


「フロリアンさん、この剣は、いったいなんなのですか? 聖騎士に対し、一般的に支給される剣とは、違いますよね?」

「はい。……その剣――魔装ルミオラに対しての説明は、今、私がこうしてやって来た理由にも大きく関係してくるので、順を追って、すべてお話しします」


 なにやら、長い話になりそうだ。

 俺は台所に行って、三つのコップに水を入れると、再びテーブルに戻った。


 こういう時は普通、お茶を淹れろよと思うだろうが、俺たちが普段飲んでる超安物のお茶を、目の前の高貴なる聖騎士団長様にお出しするのには若干の抵抗があり、それならただの水の方がまだ良いのではないかと配慮した結果である。


 フロリアンは「どうも」と頭を下げ、水を一口飲み、話し始めた。


「まず最初に、決定的な誤解をといておきたいと思います。リモールの王、アルザラ様は、レニエル様を亡き者にしようと、魔王討伐に送り出したのではありません。庶子の身分から、正式な第二王子として取り立てるために、具体的な実績をあげさせようとしたのです」


 俺は、思わず失笑した。


「冗談キツイぜ。具体的な実績って、レニエルにあの魔王様……じゃなかった、魔王を倒せるわけないだろう」


 フロリアンは、頷く。


「そうですね。でも、別に倒せなくてもいいんですよ。もっと言うなら、王族が魔王の討伐に向かったという事実だけで、実績として充分なのです。こう言っては何ですけど、『魔王は倒せなかったが、熾烈な戦いだった』と、いくらでも話を盛ることはできるのですから」

「なるほどね。でもよ、実際にレニエルは、あとちょっとで死ぬところだったんだぜ」


 俺がいなきゃよ。

 と、そこまで言うとちょっぴり嫌味なので、心にしまう(最終的に窮地を救ったのは酒場のマスターだし)。


「いえ、その場でレニエル様が命を落とすことは、100%無いと、アルザラ様はご存知でした。だから、危険な場所に送り出すことができたのです」

「またまた、冗談キツイな。100%無いって、なんで、そんなことが分かるんだよ」

「お嬢さん、『異能』というのを、ご存知ですか?」


 異能?

 ああ、最近、どっかで聞いたな。

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