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ジムに行こう

 それならば、シルバーメタルゼリー生来の、超人的な身のこなしを活かして、白兵戦での戦闘技能を高めた方が合理的だ。


 剣や槍みたいな、攻撃した相手からドババーッて血が出るようなのはちょっと苦手だから、格闘系の方が、俺に向いてる気がする。一応、あのアーニャの奴に、初歩の初歩とはいえ、ステップとパンチの打ち方を教えてもらったしな。


「よし、決めた。習おう、格闘技」


 一人、決意を表明するようにそう言うと、カチカチの食べ残しパンを、牛乳で喉に流し込み、俺は宿を出た。


 ちょうどいい具合に、そう遠くない近所にあるのだ。

 知り合いの経営するジムが。


 歩いて二十分ほどで、俺はそのジムの門前に到着した。

 若干下品な、黄色の大きな看板には、派手にフチどりされた文字でこう書いてある。


『ゲイン・モー・総合トレーニングジム』


 そう。

 ここはあのゲイン爺さんがオーナーをしているジムだ。


 プロの格闘家も何人か在籍しており、アルモットではかなり有名らしい。


 以前、一度だけ見学に来たことがあるが、ジム内のあまりにガチな空気に耐えられず、正直ちょっとビビって、さっさと帰ってしまった。


 しかし、幾度もの死闘を経験した今の俺は違う。


 イングリッド(途中からジガルガに交代してもらったけど)、そしてピジャン(水晶輝竜のガントレットを借りて、おまけにアーニャの言う通りに動いただけだけど)との戦いが、俺を強くした。


 今なら、ジムの門を開けた途端、マッチョたちが激しいトレーニングをしていても、気後れするようなことはない…はず。


 一度、二度、深~く呼吸をし、覚悟を決めて門を開く。


 あれ?

 俺は、拍子抜けした。


 ジムの中では、軽快な音楽がかかっており、ガチンコな雰囲気のマッチョはおらず、運動している人たちは、皆ごく普通の市民といった感じだ。


 なにこれ、このジム、こんなに爽やかな感じだったっけ?

 困惑する俺に、ジャージを着た、スポーツマン風の青年が話しかけてきた。


「こんにちは、入会希望の方ですか?」

「えっ、あっ、はい」

「そうですか。ようこそ、ゲイン・モー・総合トレーニングジムへ。私は、トレーナーのマルコスです。入会には、申込書への記入が必要なので、こちらに来ていただけますか」


 俺は、マルコスの指示に従って、ジムの隅にある事務スペースに移動すると、入会申込書に記入をしていく。


 半分ほど書き終わったところで、マルコスに気になっていたことを聞いてみる。


「なんか、このジム、雰囲気変わったっすね。前に来た時は、もっと怖そうな人たちが、もくもくとすんごい激しいトレーニングしてて、女の子一人じゃ、ちょっと入りづらい感じだったです」


 マルコスは、苦笑しながら言った。


「実は、お客様から、そういう意見をたくさんいただきまして、格闘技や、高強度のウェイトトレーニングをするクラスと、健康維持のための、一般的なフィットネスのクラスを、一階と二階で完全に分けたんです。おかげで、一般クラスの会員が、三倍に増えたんですよ。というか、以前は一般クラスがあることすら知らない人もいたみたいで……」

「ああ、なるほど。どうりで……」


 言われて、よく耳を澄ませてみると、二階から、何とも形容しがたい、鈍く太い音が響いてくるのが分かった。


 サンドバックを叩く音、バーベルを床に下ろす音、そして気合の雄たけび。

 そんな感じの音が、全部混ざり合っているのだろう。


 うん。

 こりゃ一階と二階で、客層を分けたのは正解だわ。


 軽く運動でもしようかと思ってやって来た人は、トレーニングガチ勢に恐れおののいて帰っちゃうもんな。

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