表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

137/266

救いと罰

ここからナナリーの視点に戻ります。

 月明かりだけがぼんやりと沼地を照らす、夜のマングローブ林。

 今までピジャンと戦っていた、すり鉢状の窪地から、レニエルとソゥラのいる集落に戻るため、俺は一人、湿地帯を歩いていた。


 やぶ蚊を手で払いながら、アーニャのことを考える。


 あいつは、一瞬だけ俺に姿を見せた後、まばたきした瞬間に、最初からいなかったかのように、姿を消した。


 心の中で問いかけても、もう、何の言葉も返してはくれなかった。

 水晶輝竜のガントレットも、気がつくと、俺の両腕から消え去っている。


 どうやら、本当にちょっとの間、貸してくれていただけらしい。

 もの凄い武器なので、このままなあなあで貰えたりしないかなと思ってたので、少し残念である。


 ピジャンの遺骸を、さすがにあのまま野ざらしにしておくことは心が咎めたので、簡易的にではあるが、埋葬しておいた。

 それから、レニエルと再会するために、こうして歩き始め、早くも五十分が経ち、例の、燃やされた集落が見えてきた。


 うっすらと、明かりが確認できる。

 あれは、レニエルの光魔法のともしびだ。


 良かった。

 どうにか、無事らしい。


 ピジャンの奴が、レニエルを始末するよう、ソゥラに命令していたので、どういう状況になっているのか不安だった(まあ、俺がこうしてピンピンしているので、死んではいないだろうとは思っていたが)が、とりあえず一安心だ。


 辺りには魔物もいないようだし、俺は、声を張り上げる。


「おぉーい、レニエルー! 無事かー!?」


 すぐに、レニエルの声が返ってきた。


「僕は大丈夫です! ナナリーさんこそ、よくご無事で!」


 俺は、自然と駆け足になりながら、集落を目指す。


「ソゥラちゃんはどうなった? 戦わずに、済んだのか?」


 レニエルからの返答が、ない。

 ……やはり、戦う羽目になったのだろうか。

 そして、俺はレニエルの元にたどり着いた。

 そこには――


「あー、うー、あぁー」


 幼子おさなごのような声を上げて、レニエルにすがりつくソゥラ。

 そして、親のように、彼女をあやすレニエルの姿があった。


「こりゃ、いったい……。おい、何があったんだ?」


 俺とレニエルは、互いに情報交換を始めた。


 邪鬼眼の術者――アーニャと、俺が直接会ったことを話すと、レニエルは驚いていたが、驚きの度合いでは、俺も負けてない。突然話しかけてきた『魔装ルミオラ』とやらの力で、ソゥラの心が幼児のようになってしまったのだから。


 ソゥラの表情は無邪気そのもので、先程、テレポート前に見せたような、悩みや苦痛の感情は一切なかった。

 恐らくだが、知能が幼児レベルになっただけではなく、記憶もなくなっているのだろう。


 何とも言い難い感情が心を満たし、俺は、唇を噛んだ。


「確かに、ソゥラちゃんの心から苦しみはなくなったのかもしれないが、これが、その『魔装ルミオラ』とかいうのが言っていた、『救う』ってことなのか? これじゃ、あまりにも……」


 きゃっきゃと夜空に向かい、手を伸ばすソゥラ。

 宝石をちりばめたような、天に輝く星々をつかもうとでもしているのだろうか。

 レニエルはその手を優しく握り、俺の方を見た。


「剣の光が収まると、だんだんルミオラの声は聞こえなくなっていったのですが、その間に、ルミオラは言いました。ソゥラさんにとって、これは『救い』であり、『罰』でもあると」

「罰?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ