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これはゾンビですか?

 というわけで、俺とレニエルは、魔王城方面と反対側の出口から、フィエオロの町を出た。


 今日一日で、随分と色んなことがあったが、時刻はまだ、正午を少し回ったあたりである。特にトラブルがなければ、日暮れまでには、どこかの町にたどり着くことができるだろう。


 大草原の中、申し訳程度にブロックで舗装された街道を、俺たちは踏みしめていく。暖かな日差しがやけに心地よく、俺は大きくあくびをかいた。


 レニエルは、臆病な猫のように、あちこちをキョロキョロと警戒している。


「心配しなくても、近くに魔物の気配はないよ。それに、こっち側には、そんなに強力なモンスターはいないしね」

「そ、そうですか……」

「万が一、空飛ぶ魔物が急襲してきても、あのクソ重い甲冑さえ着てなきゃ、お前は軽いからな。俺が担いで逃げてやるよ」


 そう言って俺はレニエルの肩をポンと叩くが、今の言葉はかなり彼のプライドを傷つけたらしい。


「だ、男子である僕が、そう何度も、女性のナナリーさんに助けてもらうわけにはいきませんよ」

「旧時代的な考え方だなあ。男女共同参画社会って知ってる?」

「初めて聞く言葉です。なんですか、それ?」

「俺もよくわからん」


 なんとなく、頭に浮かんだのだ。

 恐らく、前世の俺の記憶なのだろう。

 会話はしばらく途切れ、俺たちは街道をてくてくと歩いていく。


「と、とにかく、あのグレートデーモンのような、とてつもない怪物相手ならともかく、一般的な魔物程度なら、僕が追い払って見せます。この剣で!」


 レニエルは、腰に帯びていたショートソードの柄に、軽く手をかけた。


 あの白銀の甲冑は、グレートデーモンに襲われた場所に置きっぱなしにしたようだが、剣だけは持ってきたのだろう。美しい装飾が施された鞘は、それだけで芸術的な価値がありそうだ。


「『この剣で!』って言ってもねえ。そもそもお前、ちゃんと剣、使えるの?」


「失敬な! 使えますよ! 聖騎士に抜擢されてから、一ヶ月間みっちり稽古をつけてもらいましたから」


「へえ、そりゃ頼もしいな。……おっ、とかなんとか言ってるうちに、向こうから魔物が来るぞ」


「えっ」


「ビビるなって、大した魔物じゃない。ゾンビだ。動きものろいし、サクッと倒して経験値を稼いだらどうだ?」


 俺が笑ってそう言うと、レニエルは重く硬い表情で、静かに頷いた。

 豪奢な鞘から、ゆっくりと刃が抜かれていく。

 一滴の血も吸ったことのなさそうな、曇りひとつない白銀の刀身。

 その切っ先は、小さく震えていた。


 うーん、こりゃ、やめさせた方がいいかもな。

 凄腕の冒険者に何度も殺されかかった俺は、構えを見るだけで、ある程度の実力がわかる。


 レニエルが、一ヶ月間みっちり稽古をしたと言うのは、本当なのだろう。

 剣の握りや、腰の落とし具合など、基本的な姿勢は良くできている。


 しかし、たかがゾンビ相手に、この緊張ぶり。

 きっと、実際にモンスターを倒した経験は、一度も無いに違いない。

 俺は、諭すように言った。


「なあ、あの程度の魔物なら、俺の魔法でやっつけられるから、そんなに無理しなくても……」

「今集中してますから話しかけないでください!」

「あっ、はい」


 怒られてしまった。

 仕方ない、ここは黙って、成り行きを見守るとしよう。


 こちらに気がついたゾンビは、呻きながら手を前に出し、ノロノロと近づいてくる。その口からはよだれがだらだらと垂れ落ちていた。


 濁った両の瞳には、俺とレニエルの姿がぼんやりと映っている。


 若い女と子供の肉だ。

 奴にとっちゃ、最高のごちそうだろう。

 まあ、食べられてやるつもりはないけどね。

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