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逃げるべき?

『ねえ、こうなったらさ。逃げた方がいいんじゃない?』


 またアーニャが心の中に話しかけてくる。

 俺は、返事をせずに、少し考えた。


 逃げる……か。

 ピジャンをぶっ飛ばしてやりたいのはやまやまだが、戦う手段がない以上、今は逃げるのが最善の策だろう。


 しかし、どうやらそれは不可能であることに、すぐ気がつく。


『ピジャンの光石』のおかげで明るいこの窪地から、一歩でも出れば、暗い夜の闇、そして、ぬかるんだ湿地が広がっている。視界の悪い中、正確な道筋を選び、沼や水草に足も取られず逃げるなど、どう考えても不可能だ。


 やはり、戦うしかない。

 俺は、地面を見る。

 この際、石ころでもいいから、転がってないだろうか。

 素手に比べれば、ずっとマシな武器になる。


『ねえ』


 くそっ、ないな。

 木の枝でも、なんでもいいんだ。

 武器の代わりになる物を……


『ねえってば』

『なんだよ! うるせーな! 今、武器の代わりになるものを探してんだから、邪魔すんなよ!』

『武器、貸してあげようか? 凄いやつ』

『えっ』


 それは、今の俺にとって、素晴らしく魅力的な提案だった。


 何しろ、石ころや木の枝を探して、目の前の恐るべき敵と戦おうとしていたのだ。アーニャの言う通り、凄い武器が貸してもらえるのなら、犬の鳴きまねだってしてもいいくらいだ。


 しかし、あの邪鬼眼の術者に借りを作ることになるという事実に、どうしても返事をためらってしまう。


『そんなこと言ってる場合じゃないと思うけどな。まあ、僕はどっちでもいいよ。ご主人様には、一応きみが死なないように、危機的状況では手助けしてやれって言われてるけど、助けを断られて死んじゃったなら、仕方ないことだしね』

『だから、いったい何者なんだよ、そのご主人様は……』

『それは秘密ってさっき言ったでしょ。さあ、どうする? 武器を借りるの? 借りないの?』


 心中で会話を続ける間も、ピジャンの爪は休みなく俺の急所を狙ってくる。

 一度かわし、二度かわし、三度かわしたところで、俺は早くも疲労を実感した。


 くそっ、自分のスタミナの無さが、うらめしい。

 このままかわし続けるのは、不可能だ。

 俺は、心を決めた。


『……わかった。貸してくれ、とびきりの武器を』


 情けないが、今はこの、得体の知れない女に助けを乞うしかない。

 先程の、体が半分に裂かれるような痛みと苦しみで、心の底から思い知ったが、俺の命は、俺だけのものではないのだ。

 俺が死ねば、レニエルも死ぬ。

 邪鬼眼の術者に借りを作りたくないなどという、くだらないプライドなどクソくらえだ。


『それでいいと思うよ。人間、死んじゃったらおしまいだしね。それに、実際きみが死んだら、たぶん僕もご主人様に怒られるだろうし』

『なあ、会話はいいから、早く武器をくれよ。このままじゃ……』

『もうあげたよ。両手を見てごらん』


 言われて、自分の両手を見る。

 おおっ、なにこれ?

 水晶?


 肘から先、ガントレットみたいに、水晶がびっしりついてる。

 指先にもだ。

 かなり硬そうなのに、何故か伸縮性があり、指の曲げ伸ばしが柔軟にできる。

 驚く俺の反応がお気に召したのか、アーニャは自慢げに語りだした。

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