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凶爪

「うおぉっ!?」


 俺は、思いっきり飛びのいて、凶爪の一撃を回避した。

 ピジャンが、意外にも嬉しそうに声を上げる。


「あはー、やっと正気に戻ったんだねー。突然苦しんだり、一人でぶつぶつ言ってるから、もうっちゃおうと思ったけど、どうせならやる気になってもらった方が、ゲームは楽しいからねー」


 何が楽しいだ。

 ふざけやがって。

 日中に対峙したときも思ったが、こいつにとっちゃ、殺意ある戦いも、遊びにすぎないらしい。


 ソゥラに人殺しをさせたのも、ただのゲームのつもりなのか。

 再び、心に怒りがよみがえってきた。

 絶対許さねえ。

 ぶっとばしてやる。


『どうやって? 言っちゃなんだけど、きみの勝てる相手じゃないよ。今は、魔法も使えない状態だしさ』


『うるせーな。まだいたのか。あっち行けよ、気が散る』


『冷たいなあ、命の恩人に対して』


『窮地を救ってもらったことは、感謝してる。でも、邪鬼眼の術でイングリッドの心をもてあそんだお前を、俺は許してない』


『へぇ~、仲間思いなんだ。いつもは、あの女騎士様に求愛されても、適当にあしらってるくせに』


『おい、なんで知ってる』


『ご主人様の言いつけで、ずっと見てるからね、きみのこと』


『かぁー、ますます嫌な野郎だ』


 そこで、頭の中の会話はいったん終了した。

 ピジャンが再び、俺の首を狙って突撃してきたからだ。


 速い。

 しかし、何とか身をよじって、攻撃をかわす。

 ふう、間一髪だった。


 冷や汗が額を流れ、銀色の前髪がおでこに張り付く。

 くそっ、邪魔だ。

 無事に帰れたら、前髪切ろうかな。

 そんなことを思いながら髪をかき上げ、正面にいるはずのピジャンを睨みつけようとする。


 が、いない。

 正面にいない。

 どこだ?

 慌てて、周囲を見渡す。


『後ろだよ、う・し・ろ。ほら、前転しないと、足の腱を切られるよ』


 アーニャにそう言われ、俺は一も二もなく、前転した。

 こいつのことを信頼したわけじゃない。

 しかし、正面と左右を見渡して、どこにもピジャンがいないのだから、奴がいる場所は、俺の背後か上空ということになる。


 そのどちらからの攻撃もかわせるのは、前転して緊急回避することだけだから、俺は思考を止め、とにかく転がった。

 背後から、小さな舌打ちが聞こえる。


「へえー、気配を消して後ろから襲ったのに、やるねー。お昼も思ったけど、お姉ちゃんを排除するの、けっこう大変かもー」


 お褒めにあずかり光栄だが、そいつは少々、過大評価ってやつだ。

 恐らく、単純なスピードだけなら、俺とピジャンは互角だろう。

 しかしピジャンは、野獣的な勘というか、攻撃のセンスがずば抜けている。


 へらへら笑いながらも、鋭い爪で、的確に危険な部位を狙ってこられては、こちらはかわすのが精いっぱいである。

 おまけに、テレポートの後遺症で攻撃魔法は使えないし、反撃するとしたら、パンチかキックになるのだが、あのまがまがしい爪と、素手でやりあうなんて、武芸の達人でもない限り不可能だ。


 くそっ、せめて、武器があればな。

 最近、戦闘面をほとんどイングリッドに任せきりにして、自分自身は魔法によるサポートに徹し、武器を買おうなんて思いもしなかった怠慢と身勝手さに対するツケが、こんな時に回って来るとは。

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