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分魂の法

 俺はベッドから元気に飛び出ると、そばにあった靴を履き、軽く背伸びをする。

 怪我の影響は、もう全くなかった。


 レニエルの『分魂の法』とやらは、大したものである。治癒魔法でも手の施しようがないほどの致命傷が、こうも完璧に治ってしまうなんて。


 これほど高等な法術が使えるのなら、働き口はいくらでもあるだろう。


 もう、命を粗末にするような真似もしないだろうし、俺も安心して、新天地を求めて旅立てるというものだ。マスターにも別れを述べ、部屋から出ようとする俺に、レニエルはおずおずと言った。


「あの、ナナリーさん……申し上げにくいのですが……」

「なに?」


 振り返り、聞き返すが、レニエルは黙り込んでしまう。


「なんだよ?」


 もう一度聞き返すと、やっと、意を決したように、口を開いた。


「その……分魂の法で、ナナリーさんと僕とは、一つの魂を二つの体で共有してるんです。だから、あまり長い距離、はなれるわけにはいかないんです」


「そりゃ困るな。長い距離って、具体的にはどれくらい?」


「えっと、実際に分魂の法を試したのは初めてなので、ハッキリとしたことは言えないのですが、互いの目が届く範囲には、いたほうがいいと思います」


「ふぅん。ちなみに、長い距離はなれると、どうなっちゃうの?」


「……二人とも、死んでしまいます」


 俺は、ぎょっとした。


「おいおい、それじゃ、これからはずっと、お前とべったりくっついて暮らさなきゃいけないってことか?」


「えっと、まあ、そういうことになりますね……」


「かぁ~……参ったな、こりゃ」


 思わず、天井を仰ぐ。

 何か、文句を言ってやろうかとも思ったが、やめた。

 本来なら死ぬところを助けてもらったのだ。

 自分の魂を分けてくれたレニエルを、どうして責められるだろうか。


「あ、あの、ナナリーさん、大丈夫です。僕が、ナナリーさんの行動に合わせますから。あなたが旅をしたいと言うなら、僕もついていきます。あなたがどこかに留まると言うなら、僕もそこに留まります」


 レニエルは、俺を元気づけるように、精一杯の笑顔を作って言った。

 なんとまあ、いじらしい奴だ。

 俺は、軽く笑みを浮かべ、彼の頭を撫でた。

 途端に、レニエルは慌て、顔を赤くする。


「わっ、もう、子供扱いしないでください」

「子供を子供扱いして何が悪いんだ?」

「僕はもう12歳です。子供じゃありません」

「12歳は子供だよ」

「うぅ……」


 ふてくされながらも、レニエルは大人しく頭を撫でられ続ける。

 マスターが、声をかけてきた。


「なんにせよ、お前たち、この町から出た方がいいだろうな。リモールの王様がそのお嬢ちゃんを死なせたがっているなら、ちゃんと死んだかどうか、部下が調査に来るだろう。それなのに、この町でフラフラしてちゃ、色々まずいだろ」


「確かに、その通りだな。すぐにでも出発するよ」


「ああ。……まぁ、乗りかかった船だし、リモールの調査員か何かが俺の店に来たら、お嬢ちゃんは、無謀にもグレートデーモンに挑んで、五体バラバラにされて食われたとでも言っておいてやるよ」


「ありがとうマスター。色々世話になった。それじゃ、お別れだな」


 俺は、マスターと握手を交わし、レニエルを伴って部屋を出る。

 退室の際、レニエルはマスターに恭しく頭を下げ、最後にピシャリと言った。


「マスターさん、僕は『お嬢ちゃん』じゃありません。これでも男です」


 バタン。

 扉が閉まった向こうで、マスターが「なかなか面白いジョークだ」と笑っているのが聞こえた。

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