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証拠

 出た途端に、レニエルが食って掛かってくる(テントの中のウーフに聞こえぬよう、小声でだが)。


「ナナリーさん! 何を考えているんですか! あんなことを聞いて! 生きた心地がしませんでしたよ!」


「ご、ごめん。ほら、俺って思ったことが、すぐ口から出ちゃうくせ、あるじゃん?」


「自覚があるなら、そういう癖はすぐに直してください! まったくもうっ!」


「は、はい。努力します。……それよりさ、今のウーフの話、どう思う?」


 レニエルはまだ若干怒っている様子だったが、これ以上喚いても仕方ないと深呼吸して、平常心を取り戻したようである。


「正直、嘘をついているようには見えませんでした。隣の集落の惨状も、心から悲しんでいるようでしたし」

「だよなあ。しかしまあ、世の中には嘘も演技も上手い人間はいるし、俺たちは証拠を精査して、照合するだけだ。証拠は、嘘をつかない……」


 その昔、海外の科学捜査ドラマで見た台詞をそのまま述べ、俺たちは早速、隣の集落へと向かった。


 明日の朝に行っても良かったのだろうが、すぐに真実を知りたい気持ちを、抑えきれなかったのだ。


 夜の湿地帯は、さぞ歩きにくかろうと思っていたが、レニエルの光魔法で道を照らすと、むしろ昼より歩きやすいくらいだった。


「なんか、お前の光魔法、前より明るくなってない? それも、自然な光で、もの凄く見通しがきいて、歩きやすいよ」


「こう見えて、僕も日々努力していますから。剣術も、イングリッドさんに教えてもらっているんです。自分で言うのもなんですが、これでも随分上達したんですよ」


「へえ。でもあいつ、人に教えるの下手そうだけどな」


「そんなことないですよ。凄く理論的で、分かりやすいです。剣術道場を開いたら、きっとたくさん、お弟子さんが集まるでしょうね」


「ほんとかよ。生まれつき強い獣が、野生の本能で戦ってるような印象なんだけどなぁ」


「ナナリーさん、イングリッドさんのこと、なんだと思ってるんですか……」


 そんなことを話すうちに、あっという間に隣の集落についてしまった。

 最初に来た時は、一時間はかかったのに、今回は、正確に計測したわけではないが、だいたい五十分くらいだったと思う。


 何度も行き来するうちに、俺たちの足が、湿地を歩くのに慣れたのが大きいのだろう。


 さあ、今こそ証拠を照合する時だ。

 俺とレニエルは、燃やされたテントに近寄り、先程ウーフから採取した呪術の波動を、テントを燃やした呪術の波動と照合する。


 レニエルが、短く言った。


「……違います。ウーフさんじゃ、ありません」


「えっ、マジで? 俺たちの推理、大はずれってわけか?」


「いえ、大はずれでは、ないようです。この波動、ウーフさんの波動とは違いますが、非常によく似ています。恐らく、彼の血縁者のものでしょう。彼の親、あるいは子、兄、弟、姉、または……」


「妹、か?」


 その時、背後で草木の揺れるガサリという音がした。

 魔物か?

 そう思って、振り返る。


 そこにいたのは、ウーフの妹、ソゥラだった。


 普通なら、魔物じゃなくてホッとするところだが、ついさっき、証拠を照合して得られた情報のせいで、少しも気が休まることはなかった。

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