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見過ごしてはおけない

 俺は、立ち上がった。

 俺たちの推論が正しいなら、ウーフのはかりごとによって、少なくない数の人間が死んでいることになる。

 彼にどんな信念があったとしても、これは大変な罪だ。


 スーリアには警察も裁判所もないだろうが、それでも、誰かによって、その罪は裁かれなければならない。

 順当に考えるなら、罪を裁くのは、スーリアの人々だろう。

 鼻息荒く、俺は叫ぶ。


「この事実を、明日、いや、今からでもいい、スーリアの人々に公表すべきだ!」


「しかし、今までの話は、あくまで推論にすぎませんし、ウーフさんが事件の黒幕だという、決定的な証拠は……あっ」


「どうした?」


「燃やされた集落に残っている呪術の波動と、ウーフさんの使う呪術の波動が一致すれば、少なくとも、集落を燃やしたのはウーフさんであるという証拠になります。それを見せれば、きっとスーリアの人々も、彼に疑念を持つでしょうね」


「なるほど、冴えてるな。よし、それじゃ早速、今からウーフのテントに行って、何か呪術を使わせてみようぜ」


 そして、俺たちはウーフのテントに向かった。

 入り口で声をかけると、夜の訪問にもかかわらず、柔和な声で「中にどうぞ」と言われたので、そそくさとテント内に入る。


 ウーフは、祭壇の前に鎮座し、真剣に祈りを捧げていた。

 その真摯な姿には、神々しさすら感じ、とても、罪なき人々を燃やした殺人者には見えなかった。 


「あの、ウーフさん、ごめんね。こんな夜に」

「いえ。どうかしましたか?」

「あー、うん。その、たいしたことじゃないんだけど……これ……」


 俺は、自分のテントから持ってきた、燻製肉を取り出した。


「テルト鳥の燻製ですね。これが、どうかしたのですか?」

「いや、あのね。これ、凄く美味しいんだけど、軽く火であぶったら、もっと美味しいかな~って思って。それで、テントの中で、コンロみたいなものを探したんだけど、なくってさ。んでんで、シャーマンのウーフさんなら、不思議な力で火を出せたりしないかな~って思って」


 言うまでもなく、不思議な力というのは、呪術のことである。

 燻製肉をウーフの火の呪術で焼かせて、その波動を採取し、燃やされた集落に残っている波動と照合して、証拠にするのだ。


「そうですか。では、やってみましょう」


 微笑を浮かべたウーフが、人差し指を前に出すと、指の先端に小さな炎が揺らめき、燻製肉を優しくあぶった。

 テントの中に、なんとも香ばしい匂いが立ち込める。


 ……随分簡単に、かつ親切に、呪術を使ってくれたな。

『そんなくだらないことに呪術は使えない』とか、『火の魔法くらいあなたたちでも使えるでしょう』とか、色々言われても仕方ないと思ってたのに。


 隣のレニエルの目を見ると、彼も俺の目を見て小さく頷いた。

 どうやら、今ので呪術の波動の採取はできたらしい。


 あまりにもあっけなく、ミッションが達成されてしまったため、このまますぐにテントをおいとまするのもアレな気がして、俺は炙られた燻製肉を一口かじり、ウーフに言った。


「うん、やっぱり炙った方が美味しい。ありがとね。ウーフさんも食べる?」

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