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ばいばい

 ここは一旦引いて、作戦を(あんなデカブツにどんな作戦が有効なのか、見当もつかないが)練るべきじゃないのか?


 いやいやいや、それよりもこれ、もはや俺たちの手に負える相手じゃないんじゃないのか? どっかの国に連絡して、軍隊規模で精強な兵を出してもらわないと、こんな化け物……


 そこまで考えて、俺はちょっとだけ冷静になった。

 何故かと言うと、ドラゴンが微動だにしないからだ。

 こちらを襲ってくる様子もなければ、小指一本とて、動く気配がない。


 さっき俺は、このドラゴンのサイズをビルに例えたが、今目の前にいるこいつは、比喩ではなく、生き物と言うより、建物のようだった。


 なんていうか、説明は難しいんだけど、テーマパークとかで、大きな動物や、恐竜の作り物があったりするだろ?

 それを見て、良くできてるなとは思っても、本当の動物だと錯覚することって、まずないじゃん? 生きてるって雰囲気が伝わってこないっていうかさ。


 今、眼前にそびえたっているドラゴンも、そんな感じなわけ。

 どうやら、レニエルもそれに気がついたようで、警戒しつつもドラゴンの足に近づき、触れ、首を左右に振る。


「これ、生き物じゃありませんね。ものすごく頑丈で、大きなハリボテみたいです」

「やっぱ、そんな感じだよな? いや、焦ったぜ。こんなデカいのが動いて襲ってきたら、いくらなんでも勝ち目無いからな」


 俺は、冷や汗を拭って笑いながら、ドラゴンの足をこんこんと叩いてみる。


 その反響音で、イングリッドの剣撃を防ぐほど頑丈ではあるものの、中は空洞であることに気がついた。なんだよ、本当に、超巨大なハリボテってわけか?


 ……うーむ、さっぱりわからん。

 白い少女は、大トカゲ共を使ってこいつができるのを待ってたみたいだが、こんなものに何の意味があるんだ?


 その時、はるか上空から、声がした。

 俺たちは、三人そろって、空を見上げる。


 ダンベル運動でもするように曲げられたドラゴンの腕、その真ん中に、誰かが乗っている。その誰かが、下にいる俺たちに向かって、声をかけてきたらしい。


 聞き覚えのある、声。

 少し経って、声の主が、先程の白い少女だということに気がついた。


 距離があるので、何を言っているのかはよく聞き取れないが、懸命に耳を澄ますと、かすかに『離れて』と言っているような気がした。


 別段、彼女の言うことに従う義理はないのだが、ただデカいだけのハリボテドラゴンに、これ以上くっついていても意味はない。俺たちは、ドラゴンから数メートル、距離を取った。


 上空から、また声が聞こえてくる。


 今度は、割とハッキリ聞き取ることができた。

 白い少女は、こう言っていた。


「ありがとー! ばいばーい! また遊ぼうねー!」


 遊ぼうって……

 さっき、あんた殺意満々で攻撃してきましたやん。

 それともあの程度、彼女にとっては楽しい遊びなのだろうか。


 一応、何か言葉を返すべきか迷っていると、目の前から、ドラゴンが消えた。


 そう、消えたのだ。

 跡形もなく。

 俺は、自分の目を何度も擦った。


 右を見る。

 レニエルも、自分の目を疑い、擦っていた。


 左を見る。

 イングリッドは、ドラゴンがハリボテであると知って興味を失い、明後日の方向を向いてスクワットをしていた。


 再び、ドラゴンがいたはずの場所に目をやる。

 やっぱり、そこには何もなかった。

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