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レニエルの秘密

 気がつくと、俺はどこかの部屋、どこかのベッドに寝かされていた。

 ここがあの世か。

 思ったより普通なんだな。


 右手に、ぬくもりを感じる。

 誰かが、手を握っているらしい。

 その『誰か』の顔を見ようと、頭を傾ける。


 レニエルだ。

 目を覚ました俺を見て、彼は大粒の涙をこぼした。


「ナナリーさん……良かった、息を吹き返してくれて……!」


 なんと、どうやら俺はまだ生きているようだ。

 貫かれた心臓のあたりを擦ってみる。

 傷はきれいさっぱりなくなっていた。


 いやいやいや。

 こんなことはあり得ない。

 どんな高位の治癒魔法も、死にゆく者を完全復活させるようなことはできないはずだ。


 怪訝そうな顔でべたべたと心臓のあたりをいじくりまわしている俺を見て、レニエルは心を読んだのだろう。


 目じりの涙をハンカチで上品に拭きとると、静かに口を開いた。


「聞いてください、ナナリーさん。僕はあなたに、『分魂の法』を使いました。あなたの傷が、完全に治癒しているのはそのためです」

「分魂の法?」


 聞き返すと、レニエルは頷く。


「簡単に言いますと、僕の魂――命を半分に分けて、ナナリーさんに注いだのです」

「そういえば、聞いたことあるな。修練を積んだプリーストは、自分の魂をいくつかに分けて、無機物に命を与えたり、死人同然の者をよみがえらせたりできるって」

「おや、よくご存じですね。魂の分化法は、プリーストの秘術なのに」


 いつだったか、魔王軍の参謀である暗黒魔導師様に教えてもらったことがあるんだよ。……なんてことは言えるはずもなく、俺は曖昧な愛想笑いをした。


「しかし、不思議だな。聖騎士のお前が、どうしてプリーストの秘術を使えるんだ?」

「……実は僕、一ヶ月前までは、修道院で修行中のプリーストだったんです」

「どういうことだ?」


 レニエルは、口を結んで、俯いた。

 きっと、語りたくない事情があるのだろう。

 しかし、俺が『言いたくないなら別にいいよ』と言う前に、レニエルは重い口を開いた。


「本来なら、身内以外に明かすようなことではないのですが、ナナリーさんは僕の命の恩人です。すべて、お話しします」

「命の恩人は、お互い様だけどね」


 俺は自分の心臓をトントンと叩いて微笑んだ。

 それにつられて、レニエルも軽く笑い、すぐに真顔に戻る。


「……僕は、リモールの王、アルザラの庶子なんです」

「しょし?」

「分かりやすく言うと、王妃以外の女性との間に生まれた子、ということです」

「こりゃ驚いた。お前、王子様だったのか」


 レニエルは、寂しげな微笑を浮かべ、首を左右に振った。


「とんでもない。僕はいわば、隠し子のようなものですし、父上は僕という子がいることを、おおやけには認めていません。だから、父方の姓、『リモール』を名乗ることは許されず、母方の姓であるレニエル・クランとして修道院に身柄を預けられていたのです」


 なんだか、随分と立ち入ったことを聞いてしまったな。

 そう思いながらも、俺は静かにレニエルの話に耳を傾け続ける。


「それでも、僕は幸せでした。修道院の先生方は皆、尊敬できる素晴らしい人たちでしたし、プリーストの勉強も好きでした。しかし一ヶ月前、僕の腹違いの兄にあたる、リモール王国第一王子、ズファール様が、それまで知らなかった王の庶子――僕の存在に気づいてしまったことで、僕は突然聖騎士に抜擢されてしまったのです」

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