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奇跡も魔法もあるんだよ

「弔い合戦だ」


 怪我から回復したエドは、船長室のベッドの上で開口一番にそう言った。パウエルを殺した海賊たちへの憎悪で、彼の紅い瞳は普段よりもより一段と紅く滾っているように見えた。


「海賊共を探し出して、報いを受けさせる」


「そうね……」


 私は内心、複雑な気持ちだった。私がレディ・アデレイドに従ってパウエルや水夫を煽り立てなければ、こんな事態にはならなかったのではないか。たとえ臆病者だと罵られてもでも、海賊から逃げる選択肢を選んでおけば良かったのではないか。


 振り返って考えているうちに、海賊船の言葉が脳裏にフラッシュバックしてきた。そうだ。連中はバニスターの名前を知っていた(・・・・・)


 一体それが何を意味するのか。そう、待ち伏せだ。


 共同船首であるマネスティーの指示に従い、私たちはマネスティーの代理人であるバニスターの言う通りに船舶保険に入った。当然、艦が傷つけられたり、乗組員が怪我したり、積荷や人間貨物が損なわれれば保険が下りる。


 予め海賊に襲われる事が分かっている(・・・・・・)艦を保険に入れておけば、勿論、保険金を手に入れることができる。きっとバニスターは海賊と共謀し、この艦(レディ・アデレイド)を襲わせるように計画していたに違いない。その背後にいるのがマネスティーなのか、それとも現地の大物仲介業者のヘンリー・タッカーなのかは分からない。だが、バニスターは明らかに海賊船に関与している。


 私は頭に血がのぼる感覚に襲われた。思わず拳を握り締め、海賊への復讐を強く思った。これは陰謀だったのだ。下らない金銭のために、私の艦の船大工の命が失われた。借りは返さなければ。


 そう思っていた矢先、甲板長のマグナスが黒長耳族(ダーク・エルフ)の奴隷のウーヌスを連れて、船長室に入ってきた。


「あの……奴隷一番……ではなくて、ウーヌスが何か伝えたいようデス」


 マグナスはいつもよりさらに怯えた様子で、ウーヌスの手枷を引っ張りながら言った。


「尾振る名円遠位、円得れ池イメ顔陣図。オブ得じ奥」


「オブ得じ奥?」


「オブ得じ奥。尾振る名円遠位、円得れ池イメ顔陣図。咲いて二毛尾根、編も押す言えれ池イメ矢。オブ得じ奥」


 ウーヌスは帆布に包まれたパウエルの遺体を見据えながら、何度も同じ言葉を繰り返した。


「彼は一体、なんて言ってるの?」


「仲間がいれば彼を……パウエルを生き返らせることができる……本当だ……そう言っていマス」


「え?」


 私がマグナスとウーヌスを見つめたまま呆然としていると、レフリングが口を挟んできた。


「彼ら黒耳族(ダーク・エルフ)は死者を蘇らせる魔法を知っていると、昔聞いたことがあるわ」


「本当に?!」


 私はテーブルに乗り出した。パウエルを救う手立てがあるなんて。確かに、長耳族(エルフ)と魔法がある世界なのだから、死者を蘇らせることくらいできても不思議ではなかったのかも知れない。それでも、渡りに船とはこの事であろう。


「そのためには、魔女の力が必要だそうデス」


 そう言って、マグナスは私のほうを見た。


「私?」


「和庵意虻尾根編も押す」


 ウーヌスも私を見据えて言った。


「編も押す?」


「編も押す。円得れ池イメ顔陣図」


「ウーヌスは船長のことを魔女だと言いたいようデス。先程の外科魔法の時のことを見ていましたカラ」


 マグナスが申し訳なさそうに答えた。別に自分のことを魔女だと思おうがどうでもいい。肝心なのは本当にパウエルを蘇らせてくれるかどうかだ。


「本当に彼を蘇らせられるのね?!」


「釜、毘古メエ屋根府」


 私がウーヌスの手を取ろうとすると、彼はすぐにそれを振り払った。まだ奴隷として彼を買った事が嫌われているようだった。


「代わりに自由にしろと言っていマス」


「まあ、それはそうよね。良いわ。約束しましょう」


 私は無理やりウーヌスの手を取り、勝手に握手して腕を上下に揺らした。ウーヌスは虚を突かれたようで、一瞬頬を赤らめたが、すぐにムッとした表情になって手を振り解いた。転生前のノリで手を握ってしまったが、奴隷に対する行為としてはあまりに不自然だったようで、セバスチャンが緊張したように自分の耳を直立させた。


 マグナスが手枷足枷を外すと、ウーヌスは自分の手足を確かめるように撫でて、船長室の床の上に腰を下ろした。


「今後の行動目標として、ウーヌスの仲間を探して、プレスマン様を蘇らせる、と。ですが、海賊へのお礼参りが先でしょう。奴らを野放しにして、ウーヌスの仲間を探すのは危険かと存じます」


 セバスチャンが頭を下げながら、至極まともな事を言い放った。確かに海賊への復讐が先だろう。やはり使用人として主人に仕える時だけは頭の回転が早くなるらしい。普段からこれくらいまともであれば、どんなに気が楽か。


長耳族(エルフ)の若造の言う通りじゃな。まずは海賊への対処じゃ」


 耄碌しているのか、セバスチャンの名前すら覚えていないラスボーンが言った。頼むから名前くらいは覚えてあげて欲しい。


「でも、どうやって海賊を倒すっていうの? 相手はきっとまた待ち伏せしてくるわ」


「それなら問題ない」


 ラスボーンが小さな羅針盤を取り出した。それはテーブルに広げられた海図の上に乗っている羅針盤とは全く別の方角を示している。どうやらただの羅針盤ではないようだ。


「連中を砲撃した時、足を付けてある(・・・・・・・)。奴らが待ち伏せしていようと、これで先に位置を特定できるわい」


 魔道具と呼べる代物だろうか。ラスボーンが羅針盤に向かって呪文を囁くと、羅針盤の針が一瞬にしてシエラレオネの方角を指し示した。


「連中はシエラレオネ川付近……胡椒海岸、その近くの島……バナナ諸島に潜伏しておる」


 ラスボーンが海図に書かれた孤島を指で指し示した。


「バナナ諸島には、タッカーが使っている奴隷収容所があったはずだ。そこが海賊に乗っ取られているとなると、ただ事じゃない」


 エドがベッドから起き上がろうとしながら言った。


「まだお休みになっていてください。身体に障ります」


 セバスチャンが抑えようとするのを片手で制止し、エドはゆっくりとベッドから立ち上がった。どうやら身体のほうは無事だったようだ。セバスチャンとレフリングの二人がかりで外科魔法をかけた甲斐があったというものだろう。


「エド、貴方はタッカーが海賊に関わっていると? そう言いたいの?」


「その線は無い。タッカーは大物すぎる。海賊行為に手を貸したところで、何の利益にもならない。精々、奴隷狩りに行く海賊総督たちがタッカーに離反して奴隷収容所を使っている程度だろう」


「じゃあ、やっぱり海賊の件はバニスターが……」


「何故、バニスター様が海賊と関わっていると?」


「声が聞こえたのよ、海賊船の声が。奴らはバニスターの名前を口にしたわ」


「そんな……」


 セバスチャンが脱力したように肩を落とした。同じ長耳族(エルフ)の使用人が、まさかこんな大それた事をするということを、セバスチャンは全く予想していなかったようだった。


「それが本当だとすれば、連中はこっちの航路も航海日程も知っているということになる。だが、それは逆に奴らの弱点にもなる」


 紅い瞳に火を灯したかのように、エドの眼に光が宿った。


「どうするの? 何か作戦があるの?」


「今度はこっちから連中が動くまで待ち伏せ(・・・・)してやればいい」


 エドが勿体ぶるように言った。その眼には野心家の光が踊っている。


「海賊にとって、艦の声が聞こえる船長の存在は予想外のはずだ。勿論、バニスターにとってもだ。だから、連中は自分たちが相手の航路を知って待ち伏せできるつもりでいて、安心しきっている。そこを狙う」


「なるほど?」


「この作戦の鍵になるのは、メアリー。あんたの力だ。あんたが鍵になる」


 ついにこの時が来てしまったようだった。まさか、セバスチャンにけちょんけちょんに言われ続けてきたこの能力が、日の目を見ることになろうとは。恐らく海賊だけでなく、この能力を授けた神も予想だにしなかった展開だろう。


「いいわ。奴らを拿捕して殺……じゃなくて、懲らしめてやりましょう!」


 嬉しすぎて、ついうっかりご令嬢ではなく素の自分が出てしまったが、殺しは本意ではない。あくまでも海賊船を拿捕して海賊共を逮捕するのが目的なのである。レディ・アデレイドの言う海賊狩りの利益もあることだし。そう、海賊を捕まえることこそ重要なのだ。

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