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異世愛者  作者: 猫護
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前途多難

「ほんとに聖都へ向かう前に再生能力について検証しなくてもいいのかい」


「しつこいですよ。第一荒事を起こしに行くわけじゃないんですから、再生能力の有無なんか関係ないですよ」


「そうかぁ、いや非常に残念だなぁ。そうだ、ちょっと待ってて」


 ヘインメルさんは俺をリビングに置き去りにしてどこかへ向かうと、服を持って戻ってきた。


「流石にその穴の開いた服は着替えたほうがいいと思うんだ」


 てっきりまた、何かとんでもない提案が飛び出して来るのではないかと構えていたので、ここに来ての常識人ぶりが逆に怪しく感じてしまう。


「それ、ほんとにただの服ですか?」


「酷いな! 流石の僕でもそこまでのことは考えないよ! 人の善意は疑うものじゃないよ」


「はは、ですよね」


 白地の服を受け取ると、目の前でパッと広げる。それから袖や背面に至るまでに目を通す。


「ほんとに着ても大丈夫なんですよね?」


「大丈夫だって! そこまで疑われると流石の僕でも凹むよ」


「冗談、冗談ですって。ありがたく頂戴いたします」


 袖を通してみると、少しサイズが大きかったので、袖を折って丈に合わせる。


「ピッタリとはいかないけど、前の格好より随分いいよ」


「そうですね、ありがとうございます」


 匿ってもらうつもりで訪ねたのに、結局一日足らずでここを出ることになってしまった。マルカさんには悪いが、彼女の気持ちを考えれば仕方のない話である。


 身軽な旅であったのが幸いして、身支度にそう時間は必要なかった。


 ハースさんもここに留まる理由は無いと、共に村を出ることになった。


「マルカには僕から伝えておくから安心して」


「ありがとうございます」


「しっかし、お前ら聖都に行くんだって? 理由が理由にしろ、よくあんなことがあった後でそんな気になったな。ただでさえ危険だって分かりきってるんだから、お嬢ちゃんの髪だけでも隠した方がいいんじゃねえのか?」


「だって、なんで私がわざわざそんなことしなきゃいけないんだって話だろ。あんなよく分かんない奴らの為にそんな面倒くさいことやってられるかよ」


 彼女は強がってそう言ってみせるが、本当の理由をハースさんにそっと耳打ちする。


「実のところ、もし父親に会ったときに髪を隠してたら気がついてくれないかもしれないって」


「ああ、そういうこと」


 そのやり取りに彼女は苛立っているようである。


「でも、ハースさんがこのまま聖都まで着いてきてくれれば、安全な旅になるんですけどね」


「そりゃ無理な話だ。そんな火中の栗を拾うような真似誰がするかよ」


「ですよねー、あはは!」


「なあもういいだろ。早く出ないと日が暮れちまうよ」


 それもそうかと、ヘインメルさんに別れを告げて家を離れようとした時であった。


「おー! ほんとにあった!」


「だから言ったろ? 私にかかればざっとのんなもんよ」


 森の小道から見知らぬ女性二人組が現れたかと思うと、まるで俺達に存在を示すように大きな声で話を始めた。


「なんだぁあいつら?」


 ハースさんは眉をひそめ、不快感を顕にする。


 二人組はまっすぐこちらに向かってくると、2〜3メートル離れたところで足を止めた。


「陰気臭い家だなぁ」


「おや、挨拶も無しに人の家にケチをつけるとは、なかなかな根性をしてるね」


 しかし、ヘインメルさんの言葉に何一つ反応を示すことはなく、俺達一人一人に視線を移していく。


「あっれ、黒いのがいない」


「黒いのはいいだろ別に。問題は白髪のだ」


 その会話でこの二人が何を目的にここを訪れたのかすぐにわかった。当の彼女はと言うと、敵意を剥き出しにしていつでも剣を引き抜ける体勢に入る。


「てめえらが何者か知らないが、大方見当はつく。だが、一体どうやってここを突き止めた?」


「突き止めた? 面白いことを言うね」


 ここでようやくハースさんの言葉に反応すると、嘲笑混じりに話を続ける。


「あんな派手に魔力を使っておいてまんまと逃げ果せると考えてたんなら片腹痛いね。あたしには臭って臭ってしょうがないんだよ、あんたの魔力がね」


「なら、あの惨状を見てきた訳か。それでよく追いかける気になったな、そこだけは褒めてやる」


 その言葉を聞くと、二人組は顔を見合わせて軽快に笑い出した。


「じゃあ、まずはあんたが相手してくれるってことでいい?」


「ああいいぜ。と、言いたいとこだが」


 ハースさんは俺の肩に手を置いて言葉を続ける。


「生憎こいつらとの契約はとっくに終了してるんでね。つまり、あんたらと殺し合う理由はないってことで」


「ええ?! ちょ、ちょっと」


 予想外の発言に、思わず振り向いてハースさんの顔を見る。


「ま、そういうこった。後は頑張れ!」


 そう言って俺の背中を強く叩き、小道へと姿を消してしまった。


 二人組は一連の流れを呆気にとられたように見ていたが、ハースさんが立ち去ったのを確認するやいなや、目に涙を浮かべるほど大笑いし始めた。


「はーーいやいや、頼みの綱? があんな腰抜けだとは、あんたらも可哀想にねぇ」


「頼りにしていた男に裏切られて、いよいよ万事休すってか? あははは!」


「うるせぇ、あんな奴居なくったってなぁ、てめえらの相手なんか私一人で十分なんだよ!」


「おー、よく吠える吠える。ま、そんな哀れなあんたらにここは一つ情けをかけてやろうじゃない」


「いいねー、優しいねぇ。情に厚いのは良いことだよ」


 女の一人が腰に提げている二本の短剣を抜き、両手で構える。


「男二人は特別に楽に殺してやるからよ。あんまし暴れないで、そのまま死んでくれよ」


「ふー! その話ノッた!」


 もう一人の女も背中に手を伸ばすと、幅のある長い剣を抜き出し、地面に突き立てる。


 ふざけた言葉遣いからはまるで想像出来ないが、女性とは思えない体格の良さが只者ではないと感じさせる。


「やれやれ、困ったものだね」


 怖じ気づく俺をよそに、ヘインメルさんが一歩二歩、二人組との距離を縮める。


「争い事はあまり好きじゃないんだ。出来れば帰ってほしいところなんだけど」


「あはは! あんたが早く死んでくれたらさっさと帰ってやるよ」


「ああ、致し方ない。なら、力を以てご退席願うとしよう」


 そう言って、ヘインメルさんはおもむろに枝の様な杖を取り出した。

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