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異世愛者  作者: 猫護
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知識の探究者

「で、なぜ外に?」


 本当に不死身なのか自分の目で確かめたいと言われ、少しだけならと軽い気持ちで了承すると、外に連れ出されるとヘインメルさんはいそいそと何かを準備し始めた。


 ただ、その様子からどう見ても軽くでは済まされそうになく、もうすでに後悔しはじめている。


「室内だと何かと危ないからね。さてさて、君の話を聞く限り、不死身を謳う根拠は、いずれも人体への損傷が発生した際に発現されているようだ。ただ、それだけでは不死身なのか単に驚異的な再生能力を有しているだけなのかの判断がつかない。そこで」


 彼は真っ青な壺を一つ抱えると、蓋を取り外した。


「これを使って実験してみようと思う」


 中を覗き込むと暗いドロドロとした液体が揺れているように見える。


「これは?」


「腐食性の毒だよ」


「いや、いやいやいや駄目ですって!」


「大丈夫大丈夫、最悪でも死にはしないさ」


「だからって毒は駄目ですって!」


 先程から静観を決め込んでいる二人に視線で助けを求める。


「ヘインメルさんよ、たしかに俺だってこいつが不死身なのかどうか白黒はっきりさせたいぜ? でも、流石に毒は見過ごせねえな。第一、それでどう実験しようってんだよ」


「うん、よく質問してくれた。彼はこれまで物理的な裂傷、損傷を経験してきてる。ただ、そのどれも一時的なものでしかなかった。そこで今回はこの腐食性の毒により継続的な損壊を引き起こし、彼の再生能力がどれ程のものか検証しようと思うんだ」


「つまり、生きながら体を溶かすってことか?」


「端的に言うとそうだね」


 本人を前に酷く狂気的な説明を、あたかも当たり前かのように笑顔で行っている様子に、一瞬その残虐性を見失いそうになる。


「しょ、正気ですか?! 生きながら溶かすって、つまり、そういうことですよね?」


「大丈夫大丈夫、万が一のときは腐食部位を切り離して侵食を止めることは可能だから。さあ、説明はこの辺にして早速」


「無理無理無理! そんな軽い感覚で人を地獄の苦しみに落とそうとしないでくださいよ!」


「でも、これからのことを考えたら自分の能力の限界を知っておくべきだと思うんだけど」


 まるで人の為を思っての行動のように話しているが、その顔からは溢れんばかりの好奇心が見て取れる。


「それはその時になったら考えますよ! だからそれは無し、無し無し!」


 付け入る隙を与えまいと、両手で大きくバッテンを作り全力で拒否の意を表す。


「どうしても?」


「どうしてもです!」


「指先だけなら」


「それも無理! ぜっったいやりません!」


「そうかぁ、それはざんねんだなぁ。まさかそこまで嫌がられるとは思ってなかったよ」


 壺を地面に置いて、悪びれる様子もなくヘラヘラと頭を掻きながらこちらに近づいてくる。


「と言うか、自分の話がどれだけ異常かわかってますか?」


「さあどうだろう。知識の探求者とは得てしてそういう偏見に晒されてしまうものだからね」


「多分同じ探求者からもそう見られると思うんですけど」


「まあその話は置いておいて、次の実験なんだけど」


「この流れでよく次の実験なんて言えますね」


「まあまあそう端から否定しないで。やってみる価値はあると思うんだけどなぁ」


「なら、話だけ」


 そう言うと彼は目を輝かせた。


「そうこなくっちゃ! 次の実験なんだけど、まず最初に君の体を半分に切断して」


「却下! さっきより酷くなってるじゃないですか!」


「ええー、いやいや絶対有意義な実験にしてみせるから」


「そう言う問題じゃなくてですね、て言うか昨日と性格変わり過ぎじゃないですか」


 昨日のヘインメルさんは、落ち着いていて、体は細くても大人らしい威厳を醸し出し、悩める俺に一筋の光さえ見せてくれた。


 それが今日になって、まるで夏にセミを解体している子供のように、無邪気な残虐性を嬉々として振るっている。


「いや実はね、手紙でマルカから釘を刺されてて、昨日はそこらの凡百の大人を演じてみたんだ。だけど、今目の前にいる人物が不死身かも知れないと知った日には、誰がこの探究心を止められようか!」


 彼はそう言って突然両手を広げて天を仰ぐと、森に響き渡りそうな高笑いを上げた。


 流石の豹変に着いていけるはずもなく、呆れ果ててハースさんたちの方を見ると、彼は苦笑いしながらこめかみを指先でつついた。


「さあ! 僕と一緒にその無限に広がる知識の可能性を探っていこう!」


「だから無理ですって」


「そんなぁ」


 彼は大きく上げた両腕を勢いよく下ろすと、肩から脱力し明らかに落ち込んでみせた。


「なあ用が済んだなら俺はもう戻るからな」


 ハースさんは既に飽きていたらしく、落ち込む彼を尻目に家へと戻っていった。


 だが、ハースさんと一緒になって俺のやり取りを見ていた彼女は、何故だか家に戻ろうとせず怪訝な顔を浮かべている。


 思えばこのやり取りの間、彼女は一言も発していなかったが、もしかすると傷が痛んでいるのかもしれない。


「どうした? やっぱりまだ痛むか?」


「そうじゃねえよ。ただ」


「ただ?」


「お前、私に何か隠し事してるだろ」


「へ? いやいやしてないって。なんだよ藪から棒に」


「じゃあ、あそこのアホが言ってた異界の旅人てどういう意味だよ」


「あ」


 しまった。特に隠していた訳ではないが、話題にする機会がなく今の今まで話していなかった。


 そんな話をこんな形で知れば、意図して隠していたと思われても仕方がないだろう。


「あ、て。お前やっぱり」


「違う違う! ほんとに隠してたとかじゃなくて」


「今はそんなのいいから、異界の旅人てなんのことなんだよ」


「いや、なんて言ったらいいか、俺が別の世界から来たって言ったら信じてくれる?」


「……はぁ?」


 彼女の表情がますます険しくなっていく。当然の反応と言われればその通りだが、これが真実である以上どうしようもないのだ。


「まあ、じゃあそういうことにしといてやるよ」


「あれ、信じてくれるんだ」


「信じる信じないは置いといてとりあえず、そう言うことにしとくってことだよ。それにお前がそんな馬鹿みたいな嘘をつくとも思えないし」


「お、おお? なんだよ意外と俺のこと評価しててくれてたのかぁ、いやいや嬉しいな」


 10も年が離れていそうな子供に褒められるのはあれな気もするが、出会った当時を思い出すとなんとも嬉しい気持ちになって、彼女の頭を撫でた。


「ちょ、なんだよ急に!」


「いや〜なんだかなぁって」


 と、彼女の蹴りが尻を直撃して声を出して飛び上がってしまう。


「いったぁ! ちょ、なんだよ折角いい感じだったのに」


「うるせぇ」


 肩を怒らせながら家に入っていく彼女を見届けると、ヘインメルさんが肩をに手を置いてきた。


「なあ、その臀部の痛みが引いたとき、それが凡人と同じく自然治癒によるものか、はたまた特出した再生能力によるものなのか気にならないかい?」


「気になりません!」



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